バイオリンと録音と

クラシックのコンサート、バイオリンの演奏方法、バイオリンのグッズについての記事多し。他、楽譜(Lilypond , Sibelius)、和声学、作曲、DTM関連を取り扱っております。

2013年10月

『2本のバイオリンのための組曲』を登録しておきました。
https://drive.google.com/open?id=1ynOSxS_4CD97qe05fArVmIE9hvtV6TD5

シュールに爆発ダニエル・ホープ

本日、台風前夜の東京。雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、トッパンホールへ。

2013/10/15(火) 19:00開演
~禁じられた音楽~

シュルホフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番
ペルト:フラトレス
ストラヴィンスキー:オペラ《マヴラ》より 〈ロシアの歌〉
メシアン:《世の終わりのための四重奏曲》より 〈イエスの不滅性への讃歌〉
ラヴェル:《2つのヘブライの歌》より 〈カディッシュ〉

ロベルト・ダウバー:セレナード
メンデルスゾーン:ヴァイオリン・ソナタ へ長調
アイスラー(ベイトマン編):
《ハリウッド・ソングブック》より 〈小さなラジオに〉
ワイル(ベイトマン編):
 ミュージカル《ワン・タッチ・オブ・ヴィーナス》より 〈スピーク ロウ〉
ガーシュウィン(ハイフェッツ編):
 ミュージカル《ポーギーとベス》より 〈そんなことはどうでもいいさ〉
ガーシュウィン(クナウアー/ホープ編):
 ミュージカル《ポーギーとベス》より 〈サマー・タイム〉
ガーシュウィン(クナウアー/ホープ編):
 ミュージカル《ガール・クレージー》より 〈アイ・ガット・リズム〉

ダニエル・ホープに関しては以前トッパンホールで聴いている。演奏はずば抜けてうまいのであるが、感動のない弾き方で、自分の好みではないという感想であったのだが、これだけの挑戦的なプログラムであるならば、行ってみようという気になったのであった。

ということで、あまり期待はしていなかった。まあ、シュールホフのソナタを生で聴けるのであればよいと考えていたのである。

トッパンホールのお客さんというのは、凄いもので、名もある演奏家であっても駄目な演奏をすると次の演奏会では、客が減るのである。ということで、前回はあまり芳しくなかったのと、この台風で客は少なめであった。

でも、ダニエルは燃えていた。いきなり今回のコンサートが特別なものであり、素晴らしいトッパンホールのお客さんのために特別に考えたプログラムであり、様々な種類の作曲家を紹介したいとの英語でのスピーチがあった。これは、普通の演奏会では稀なことである。

なんか、私の心も燃えてきた。なんか、悪役プロレスラー風に翻訳してみると、

「東洋の猿どもに、本物のユダヤ音楽を聴かせてやるから心して聴け!」

と言っている気がしてとても頼もしく思ったのである。場を弁えたいい悪役じゃないか。それくらいに挑発的である。

まず、第1曲目からメインイベントなのであるが、いきなりシュールホフである。あの天才のシュールホフ。グレートなシュールホフなのである。このソナタは、20世紀にかかれた作品でも最高傑作といっておいておつりが150円くらい返ってくるくらいの大曲である。これを先頭にもってくる。余程の自信家である。

多彩な演奏技法が要求される演奏至難の曲なのであるが、これを軽々と余裕で演奏している。とにかくエッジのたった鋭い切れ味と重厚な音量と音色。申し分なし。聴いていて背中がゾクゾクするくらいで悪魔の舞といった感じである。まさにダニエル・ホープのために書かれたのではないか錯覚するくらいの演奏であった。CDでは何回も聴いている曲ではあるが、生で聴くとここまで凄かったのかと改めて、背中がゾクゾクするのであった。

次にこれまた凄いぞ、ペルトのフラトレス。この曲は、トッパンホールに来てくれるお客さんのためのスペシャルということで、最初のプログラムにはなかった曲を入れてきた。いきなりの延髄切り炸裂である。

この曲は、はじめて聴いたのだが、極めて斬新な曲である。バイオリンを旋律楽器としてではなく、音の固まりとして捉えた発音のさせ方をする曲である。ここで固まりとは、複数の鐘を鳴らした効果や、あるいは雲のようなふんわりとした音であり、その背景に明らかに教会のイメージがある。祈りの曲なのである。実に不思議な音の連続。バイオリンという楽器のまったく違う発想の音の出方であるが、前衛という感じはほとんどしない。深い祈りである。たぶん、悔しいが西洋人でしかうまく表現できないものが詰まった曲である。ここでも驚いたのだが、技巧的フラジオレットが連続しており、あたかも口笛のように聴こえてくるのであるが、この技巧的フラジオレットで奇麗なビブラートをかけているのである。普通だと擦れたような雑音が混じるのであるが、ダニエルホープはきれいな歌になっている。地味ではあるが、もの凄い超ハイテク技術である。
この技術があればこそ、この曲が生きてくる。まさに神業である。

この前半2曲でほぼ満腹になったのであるが、容赦なく曲が続いていく。やはり現代ものに関しては、技術力がずば抜けて凄いので、相当に輝く演奏である。

ただ、後半のメンデルスゾーンのソナタはあまり感心しなかった。抜群にうまいのであるが、作曲家との距離感があり過ぎる気がするのである。ダニエル・ホープはおそらくロマン派の音楽は好きなのであろうが、彼の演奏スタイルにはまったくあっていないように感じる。

彼は、演奏スタイルを曲によって変えないし、作曲家と一定の距離間をとっているように思う。またハイフェッツなどがよくやるショーマンチックな演奏も嫌っているので、シュールホフやペルトのようなタイプの作曲家の場合は、絶大な効果をあげるが、そうでないとただうまく弾いているだけに聴こえるのだろう。後半のジャズぽい曲ももっと色気があってもよいようには思うが、これが彼のスタイルなのであろう。

●追記
 今回なんと、譜面台がiPadであった。演奏家もIT化している。iPadの譜面の場合は、ページをめくる必要がないので、紙のめくり音がしないのでとても好感がもてる。ただ譜面としては、大きさが小さいのでもっと大きな形のIPadがあれば、私もほしい気がする。



そんなものなの?

本日、トッパンホールにて、ペーター・ツィンマーマンのリサイタルに行ってきた。

2013/10/6(日) 15:00開演
フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン) / エンリコ・パーチェ(ピアノ)

J.S.バッハ: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 全6曲
第1番 ロ短調 BWV1014/第2番 イ長調 BWV1015/第3番 ホ長調 BWV1016/
第4番 ハ短調 BWV1017/第5番 ヘ短調 BWV1018/第6番 ト長調 BWV1019

 ツィンマーマンのトッパンホールでの演奏会は何回か流れているので期待度が上がっており、当然のごとく本日は満席であった。全曲演奏という偉業でもあるし、期待度が大きくそれなりにうまい演奏をしたので、相当大きな拍手で、観客の皆さんはとても満足していたと思う。
でも、私は、つまらない演奏だと思った。その理由が漠然とせず、3時間くらいモヤモヤと考えていたのだが、例えていうなら、設計図のあるプラモデルをマニアな人にお願いして作ってもらったのだが、確かに設計図通りで正確で丁寧に作られているのであるが、 予想でおりで感動がないという感じであろうか。私の脳内では、凄腕のマニアさんが作った艦船模型くらいのできは期待していたのであった。

あのツィンマーマンならこのくらいはやるであろうという期待が大きすぎたのかもしれない。

では、どこに不満があったのであろうか。私は、このバッハの曲集に関しては、リファレンスが脳内にある。あのアンドリュー・マンゼとエガーの演奏である。この演奏が、まさしく上記の凄腕マニア的演奏である。だから、並のバイオリニストでは退屈してしまうのである。ツィンマーマンが並では駄目だろうという理屈なのである。

なぜ、並の演奏になってしまったのか、ツィンマーマンという人は、丁寧に音楽を作っていくタイプのバイオリニストであり、作曲家の言わんとすることを、丁寧に汲み取って演奏するタイプである。でも、マンゼの場合は、バッハと積極的に会話したい、何かを聞き出してやりたい、言わせてみようとするタイプの演奏家である。そして相棒のエガーがそれをみてどんどんと挑発していくスタイルの演奏をするので、聴いていて予測できない部分があり面白い。ハラハラするのである。

今回の場合、ピアニストであるエンリコ・パーチェが、おとなしすぎて、本来は挑発に乗ってくるタイプのツィンマーマンの真の実力を引出せていないように感じた。もともとこの曲集は、バイオリニストが付属であり、チェンバロが主役の楽曲なのである。それが、あまりにもおとなしすぎたため、曲本来の面白さが台無しになっているのである。

なので、凡作である1番、2番は、「ああ凡作ですね」と言う感じでしか聴こえずとても眠かった。マンゼ&エガーは、この曲ですら傑作であるように聴こえる演奏をしている。正直、ツィンマーマン&パーチェの演奏である程度の満足できたのは、3番と6番のソナタのみである。全体的に工夫と楽譜の読み込みが浅いように感じてしまう。

結論的には、ツィンマーマンは、バッハにあまり向いていないように感じた。マンゼは別格としても、イザベル・ファウスト、テツラフ、ムローヴァ、クレーメル達の最先端をいくバッハ演奏の次元とは、ほど遠い。次回は得意分野である20世紀以降に作品に焦点をあてたプログラムを望みたいところである。

 

 

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