バイオリンと録音と

クラシックのコンサート、バイオリンの演奏方法、バイオリンのグッズについての記事多し。他、楽譜(Lilypond , Sibelius)、和声学、作曲、DTM関連を取り扱っております。

2014年10月

『2本のバイオリンのための組曲』を登録しておきました。
https://drive.google.com/open?id=1ynOSxS_4CD97qe05fArVmIE9hvtV6TD5

指の先置き技術

Simon Fischerの音階教本である《スケールズ》で毎日練習し録音。随分と音程が安定し、響きも少しはプロぽくなってきたように思う。(←慢心注意!!)

原因を考えてみるに、例えばこういう移弦を伴う場所。

G-Dur


3小節目のD音から4小節目のC音へ移弦する部分は、C音を弾く前にC音の位置にあるダイヤ型音符を4指であらかじめ押さえて移弦を準備したあとでC音を弾き、H音を弾く前にダイヤモンド音符で示された2と3の指を準備したあとでH音を弾くという手順になる。

こうした手順を考えずに、適当に移弦すると、弓の方がわずかでも早いと、指で押さえる最中に弓が弾かれることになるので、フニャというアタックのない音になる。

フニャという音になってしまったかどうかは、速いパッセージにおいては、中級者、上級者になるとかなり微妙の音判定になり、バイオリンをやっていない人にはたぶんわからない。あるいは中級者レベルの学習者になってもまったくわからないかもしれない。先生に厳密に何回も指摘されているうちに、アタックがあるのかないのかの微妙な違いがわかるようになるであろう。その意味では、ほとんど匠の世界でもある。

特に小さいころからバイオリンを習っている人と、大人になってからならった人の大きな違いがでるところは、移弦するタイミングである。大人の学習者は、同時 と思っていてもファイン精度の世界では、はずれているものなのである。

別のフニャ音対策として、指板を強くたたくという指導者もいるのであるが、これは欧州でシステム的にバイオリンを教えている先生にしてみれば、無駄な動きを増やすだけの場当たり的な対処であると一笑にするであろう。

なので、この教則本にしたがって演奏すれば、当然のことながらフニャがなくなり、プロぽい響きになったという次第である。

ただ、ダイヤ音符を押さえるタイミングを早くするのは簡単ではなく、ついついダイヤ音符を押さえるタイミングにつられて移弦してしまうので、ゆっくりと練習し、リズムも正確にとれるようにしておく必要があるのであろう。

それとこの《指の先置きの技術》は、指を指板に音程のツボにそって正確に置くことを暗黙の動作として要求するので、手の形を最適にするという面で、重音奏法とも技術的に繋がってくる。このため、音階練習しているにもかかわらず重音をうまく押さえる練習も同時に叶えていることに気がついた。今までは、スケールを押さえる手の形と重音を押さえる手の型は違うものとして認識していたが、共通部を意識するということが必要になるのだろうと感じた。

ドイツ人のコンミスは、この手の形を蛇の頭にたとえて教えてくださったが、天井方向を向き寝ていた蛇が、指板方向へむかう獲物を狙う蛇のような形になるのが、正解なのだろう。

以下は、ハイフェッツの左手の動画であるが、蛇の動きのように非常になめらかな美しい動きをしている。こういうのを意識してのSimon Fischerのスケールズの練習なのであろう。




そういうことを頭にいれて、うまいとおもわれるアマチュアのヴァイオリン弾きの弾き方を観察しているとほとんどが、この基本からずれていることがわかった。できている方もいるが、非常に少ないので、おそらく伝統的な奏法をしっかり教えてくださる先生についていたのであろう。

本日、弦楽器フェアがあったので、弾いている方々を、意地悪く観察させてもらったが、基本がばっちりとできていたのは二人だけであった。

残念ながらプロ奏者でもこれができていない人も結構いる。でも、プロの中でも、バイオリンの音程が安定している方は、この弾き方になっているので、そうなのかと思ったしだいである。

音程マニア

「バイオリ弾きたるもの音程マニアでないといけない」
オーケストラの指導の先生がよくいう言葉である。私の師匠では、習わなかった音程の取り方をたまに教えてくださることがあり、ありがたい。その先生は、都内プロオケの現役の先生なのであるが、音程には特にやかましいのである。特に調弦の少しの狂いも見逃さない聴力はさすがであると思う。

なぜ調弦が大切かというと、バイオリンではこれが音程の基準になっているからである。この前、感心したのは、アマオケのコンサートマスターをつかまえて、その弦は古いのですぐに全部の弦を取り替えるように指導。弦のハーモニックスの音程が狂うときが、弦の替えどきであるのだが、そのわずかな狂いも聞き逃さなかったのだ。その人に関しては、音程に多少無頓着なところがあるので、その指摘には内心ほくそ笑んでしまったのであった。

このように人の不幸を喜んでいるようなお隣の国のような人であってはいけないことを反省しつつも、バイオリンにおける音程の取り方を師匠やプロオケの先生方々から部分、部分で教わることはあるのだが、系統だったメソッドがないのかとずっと考えていた。あるドイツ人のプロオケの女性コンサート・ミストレスに少し教わったことがあるのだが、日本で教えてもらっているレッスンよりもかなりシステム的、合理的にレッスンしてもらったので、なんか指南書があるのだろうと考えていた。

そして、その指南書の一つをようやくみつけた。
 それが、以下である。

 
Scales and Scale Studies: For Solo Violin
Simon Fischer
Peters, C. F. Musikverlag
2012-06-20


 購入してみてから驚いたのであるが、あのカール・フレッシュの音階教本よりも分厚いということ。ただ、カール・フレッシュと違いこちらの本の方が、より実践的にかかれている。具体的には、準備する指、指の押さえ方、離し方も全部事細かに記載されているのである。

「そうなんですよ、これがドイツ人コンミスが説明していた内容であったのですよ。」

オーケストラでは、半音階とか変ト長調とか、変ニ長調とか頻繁にでてくるので、これを正確にとる技術の習得に困っていたのであるが、音程をとるための練習パターンのバリエーションが膨大にあるので重宝する。 

これ一冊があれば、他の音階教本はいらないのではないかと思うくらいである。確かにこのメソッドにしたがって練習するとかなり正確に音程をとることができる 。ただ、この記事を読んで、ネット弁慶というか、先生に習わないで、「俺は天才だ。できるはず」と舞い上がっている人もいるかもしれないが、こういう教本でこそ、基礎をしっかり教えてくださる先生のもとで、自己流でなく、きっちり、ばっちりと歴史的に正しいやり方で本物の技術を学んでやっていく必要があるのだろうと思う。

短期間でも、きっちりとした先生にレッスンしてもらえば、おそらく格段に音程が綺麗にとれるようになるのだから、アマオケの演奏者で先生についていない人は、こういう技術の習得はきっちりとやった方が良い思うのだが、肝心なところでケチな人が多いのは不思議なことである。

ドイツ風カプリース その3

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

このように頭の中のコンサートの記憶が泡の如く消えてゆき、残りの18曲の感想は書けなくなったのだが、これぞバイオリン音楽の神髄ということで印象に残った部分を記載することにする。

ツェートマイヤーの演奏で面白いと思ったのが、この第8曲 Maestosoである。

2014-10-22-17-49-15


音価の長い定旋律上で細かい音符が動いていく。対位法の専門用語では、この定旋律をカントスフィルムスと呼ぶのかなあ。忘れてしまったけど。

ツェートマイヤーの演奏では、カントス・フィルムス上を動く音符は、カントス・フィルムスの変化によって音程も刻々と変化する。言い方を変えれば、声楽的に三度、六度を丁寧に純正にとっている。調律でいうとミーントーンぽい感じがする。このため、ピアノのような音程の取り方を絶対であると信じておられる方は、残念ながら音程が悪く聴こえてしまうかもしれない。

でもこれが本来のバイオリンの音程であり、古きよき時代の歴史的な伝統に立脚した演奏法である。こういう演奏は、ヨーロッパの伝統を受け継いできた奏者でしかできないものであり、ツェートマイヤーにかぎらず、ドイツ系のバイオリニストは、よくこうした伝統を踏まえているものと思う。

●音程の基本
 音程は固定されたものではなく音楽の前後関係で変化するものである。


そもそもコンクール・ミュージックという名のニセ・クラシック音楽の隆盛とともにピアノ的な音程感覚が横行し、曲本来の味が、グローバルと言う名の中国製フライドチキンに成り下がってしまったのであると、明言しているかのような演奏であった。

そういえば、最近、こうしたことを嘆いてか、古楽理論の普及によってか知らないが、この暗黒のグローバル世界に一筋の光を灯す偉大な教本が出版された。輸入楽譜のため入手がやや困難であるが、バイオリンの正しい音程の取り方についてより詳しく知りたい方は、一読されるとよいと思う。

Fischer, Simon "Scales and Scale Studies: For Solo Violin"

ツェートマイヤーのサイン

ドイツ風カプリース その2

カプリースは、練習曲であり演奏会形式での演奏をするということは想定されていないため、全曲演奏会で曲順どうりに演奏する場合、後半の12曲よりも前半の12曲の方が、演奏の出来が悪く聴こえるものである。特に前半の12曲の第1曲は、高速分散和音のスピカートで広範囲に音程が飛び回る、まるで現代曲のような感じになるので、うまく弾いたとしても、和声感が掴みにくくヒステリックに聴こえるので、人によっては下手くそに聴こえるかもしれない。聴衆としてもいきなり、音の嵐に巻き込まれるようなもので、音に対する準備ができないのも問題である。

私的な提案ではあるが、第1曲から始めず、パガニーニの名刺代わりの曲である第24曲から演奏し、次に第一曲から始めていき、最後にもう一度第24曲から演奏を演奏するという風のプログラム構成にした方がよいかもしれない。

●第1曲~第2曲
ツェートマイヤーは、わりと慎重に演奏していたと思う。
逆にいうとツェートマイヤーのような個性派バイオリニストであっても曲が曲だけに大人しくしておくしかないということかもしれない。

No1

まあ、こうした分散和音のパッセージというのは、協奏曲のカデンツァの盛り上がった部分で、よく出てくる形なのであるが、いきなり出てくると、聴いている方も疲れる。

NO2

●第3曲
この曲からようやく曲らしくなる。ゆったりとした旋律テーマがあり、それが強烈に変奏されていくというパガニーニの得意な形式である。
 ただ、このテーマは聴いている分には平穏に聴こえるのだが、バイオリニストにとっては至難のオクターブ・トリルがあるし、曲の最後でも出てくるオクターブ進行はやっかいだ。ちなみにバイオリンの場合は、ピアノと違ってオクターブ連続進行は、指の間隔を音程ごとに変更させる必要があること、オクターブは音程の差がでると目立ちやすいので、うまく聴こえさせるのは、相当な技術が必要。
 ツェートマイヤーはそのところは問題なし。この曲が終わったところで、ハンカチで額を拭い、調弦し、小休止。どうやら三曲ずつで小休止するプランのようである。指と肩の筋肉疲労は相当なものである。
No3a

No3b

●第4曲
これまた過酷な重音練習の曲。今度は10度連続が出てくる。10度はパガニーニでは頻繁に出てくるのだが、手の小さい人では演奏困難。ツェートマイヤーは手の大きい人なのだが、それでも小指を目一杯伸ばしながらの演奏で、見ているだけで大変な感じがわかる。

No4



●第5曲 アジタート
アジタートは、「激しく、興奮して」とかいうバイオリン曲ではよく出てくる音楽用語であるが、日本人の日常ではなかなか存在しない表現なのでつかみ難い。外国の映画では、早口で激しい口論する場面があるが、そんな感じが近いのかもしれない。ツェートマイヤーの演奏は、イタリア人のそれではなくドイツ人同士の口論のような感じがした。

譜面では、以下のようになるのだが、実際の演奏では、そのように聴こえないのが面白い。16分音符の4番目のスタッカートがキモかな。変則ボーイングになるので、譜面面よりも実際は難しい。耳コピーが得意な人もこの曲がこうなっているとは思わないであろう。

No5

第6曲
単純な旋律にトレモロを付与するという不可能だろうと思われるアイデアを実現した超絶技法の曲なのだが、その割にはそうしたところが伝わり難い。後にパガニーニの追っかけさんであったエルンストの「魔王による大奇想曲」とか「夏の名残りのバラ」とかでは、こうした技法が効果的に取り入れられている。
 ツェートマイヤーは、旋律を素朴に古風に演奏していたのが印象的。まあ、意地悪な人は、この旋律にビブラートをかけながらトレモロせよと言ってくるかもしれないが、それはほとんど不可能な感じ。ヒラリー・ハーンとかダニエル・ホープならもしかしたらできるかもと少し期待。

No6

(次号に続くかも....。)

ドイツ風カプリース その1

本日、楽しみにしていたトーマス・ツェートマイヤーコンサートに行ってきた。

2014/10/17(金) 19:00開演 トッパンホール
トーマス・ツェートマイヤー
パガニーニ:24のカプリース Op.1全曲

ツェートマイヤー


ツェートマイヤーと言えば、《奇才》と呼ばれるドイツのバイオリニストなのであるが、今回のこの演奏を聴いてみて、《奇才》ではなく、ドイツ音楽の伝統を背負った《正統派》のバイオリニストになったのかという感じがした。堅実でありながら、音色の一つ一つに工夫を凝らしつつ、ところどころに遊び心も入れているという、ドイツ職人的な演奏であった。
普通のバイオリニストとは次元がまったく違う素晴らしい演奏で、私の中のベスト生演奏5に入るくらいのレベルであった。ちなみに、ベスト5は、マンゼ、テツラフ、カルミニョーラ、イザベル・ファウストそれに、今回のツェートマイヤーである。

さて、どこが凄かったのか、詳細に述べてみることにする。

まず、今回のカプリースという曲は、クラシックのバイオリン無伴奏曲のもっとも難易度で高い曲集であり、全曲を一夜で満足に演奏できるバイオリニストは、ほぼいないと思っていたのだが、ようやく、その高すぎる壁を超えるバイオリニストに出会ったということだ。

まず、技巧的に超絶的に難しいのはいうまでもないのであるが、バッハやイザイのように曲に深みというものがないので、これを全曲聴かせるとなると、かなりの工夫が必要だ。大抵は、「プロ用の高級メソッドを聴かせて頂きました。それにしても演奏が難しい曲ですね。」という凄いものを動物園か水族館でみてきたレベルの感想になる。
これを「楽しいですね。」「イタリア的な歌心を感じますね」というレベルにもっていくには、さあどうするかということになる。プログラム上の曲順を変更するという手もあるのだが、今回はそれはなし。
ツェートマイヤーのとった演奏は、こうであった。
(次回に続く)
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