バイオリンと録音と

クラシックのコンサート、バイオリンの演奏方法、バイオリンのグッズについての記事多し。他、楽譜(Lilypond , Sibelius)、和声学、作曲、DTM関連を取り扱っております。

2015年12月

『2本のバイオリンのための組曲』を登録しておきました。
https://drive.google.com/open?id=1ynOSxS_4CD97qe05fArVmIE9hvtV6TD5

バイオリン音感

最近、「ニチオン音叉」で検索してくる方が、急激に増えてきた。調べてみるとテレビの和風総本家という番組で「ニチオン音叉」が取り上げられたことだとわかった。欲しい人も随分いるような気がするが、この世界最高水準の音叉を所有したところで、その使い方がわからなければ意味がないであろう。
音叉は基準音なのであるが、今回のテーマはその先にある正しい音程で演奏できるようにするにはどうするかということである。

ニチオン


さて、 世の中には、2つの方法の音程の取り方があるようだ。

1.  固定ド(絶対音感の世界)
2.移動ド(相対音感の世界)

私は、どちらも勉強してきたが、バイオリンの場合は、その両方が必要というのがどうやら結論であるというには、少々、プロセスを無視した乱暴な言い方である。

まず、二つの世界観の特徴を書いてみると、

 1.  固定ド(絶対音感の世界)

ほとんどの人はこの方法で音程を取っている。楽譜に音符に書かれた音符の音名をそのまま演奏すれば良いので難しくない。ただし、音楽の意味を全く考えていない音程の取り方であるので、例えば、日本語の歌を外人がその発音のそのままに真似して歌っているような感覚に近い。全く音楽の意味を考えずに歌えるというのが、 固定ドの強みでもあるし、弱みでもある。
 さらにバイオリンで演奏する場合の問題点は、バイオリンの音程は異名異音であるということで、このことを知っていないと正しい音程にならないということである。例えば、バイオリンではCisとDesは同じ音程にはならないということである。よくあるのが、EisはF、CesがHになると思っている人もいるようであるが、これは間違った音程感覚である。

異名異音

※ピアノの場合は、EisはF、CesがHになってしまうが、これが違うと思って弾いている人が弾けば、音楽の表現がまるで違うことになる。伴奏のピアニストならこの弾き違いを意識している。それでこそのプロである。なので、私は本職のソロ・ピアニストよりも、ランバート・オルキスやブルーノ・カニーノ、野平一郎、イリーナ・メジューエワのような伴奏のうまいピアニストを高く評価しているのだ。

2.移動ド(相対音感の世界)

 ドの音程が、調によって移動する音符の読み方になるので、固定ドの人からみると異端的で、天動説と地動説のような感じで受け入れできない人が多いが、もともとこの読み方は、由緒正しき西洋音楽の読み方であると説明した場合、驚かれる場合が多い。私の言っていることを信じる必要はないが、以下のサイトに書かれていることは、読んでおいた方が良い。

「中世の移動ド」事始め

移動ドの最高の利点は音楽の意味、例えば、移調する箇所、戻る場所を把握する必要があることから、音楽の意味、つまり楽曲分析をしつつ音符を読むことにある。それとバイオリン的に言うと、固定ドで意識する必要があった異名異音の音程の違いを考える必要がなく、正しい音程で演奏できるということになる。
下記の例だと、移動ドで読む場合のE♯は「シ」となり、主音ドであるFisの導音、すなわちFis-Durであると認識する。そうすれば導音シを高く取り、主音に繋げるということが自然にできる。


半音と全音

※セント値は端数を省略してある。
 正確には、
   狭い半音: 1200 × log2 (256/243 ) = 90.225 セント
   全  音: 1200 × log2 (9/8 )   = 203.910 セント
 広い半音: 203.910 - 90.225 =113.685 セント


問題は、相対音程ということなので、初めのドの音を低く取ったり、高く取ったりすると、他のレミファソラシの音程も狂うことになる。そういう意味で基準となる絶対音が必要である。バイオリンの場合は、それが開放弦のG、D、A、Eとなる。

なので、バイオリンの場合、絶対音感、相対音感を超える音感が必要となる。

ということで、ここまで読んでとても退屈であったろうと思うが、面白いのはここからで、私は、もっと実践的に音感を捉えていく。

さて、問題です。以下の楽譜を5分でなるべく音程が正しく取れるように考えて暗譜してください。なお、この曲は、チャイコフスキーの弦楽セレナードの第1バイオリンパートから取ってきたものですが、強弱記号は省いております。

エレジー中間部
 

おそらくプロは30秒くらいで完全に暗譜できると思うが、それには理由がある。

この問題は特に音程が良くなるように暗譜するということを絶対に考えて取り組んで欲しい。スラーやスタッカートを残してあるのはそういう理由があるからだ。イメージ記憶の丸暗記では意味がないのだ。なお、この回答については、このブログにある「拍手」が、今年中に50回を越した時に記載することにする。別に人気取りをする気持ちはないのだが、プロが知る技術を気軽に教えるのは、非常に心苦しい感じがするし、音程に関して真剣に取り組んでいる人にだけ読んで欲しいので、そういう人がどれくらいいるのか、そのおおよその数を把握しておきたいのである。

ということをご了承して頂いて、後の記事は読者次第ということで。


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争奪戦敗北の負け惜しみ

ベルリン・フィルが来日とのことで、チケットを入手しようと思ったのだが、果たせず。本気を出せば手に入れることは、たぶんできたのだが、でも曲がねえ。ベートーヴェン交響曲の全曲演奏などは国内オケで充分。サイモン・ラトルがN響、読響、都響、東響を振れば良いだけの話し。こんなことを言ったらベルリン・フィルのファーンから怒られるかもしれないけど、バレンボイム/シュターツカペレ・ベルリンのブルックナー交響曲全曲演奏の方が企画的には上だろう。

このオーケストラでないとできない曲で今後のクラシック界にとって指針となる意義のある曲。地平線の彼方を目指すような曲をやって欲しい。絶対王者「羽生」的なオーケストラが、こんな4回転ジャンプも入れない平凡プログラムで、日本のクラシックファーン層が納得する時代は終わっていると思ったしだい。

※とは言え、このプログラムは、ウィーン・フィルなら聴いてみたい気もする。

のでベルリン・フィルくらいのオーケストラに期待したいところは以下の曲になると思う。

通常の有名曲でいくと、

ショスタコーヴィチの交響曲第4、8、14番
マーラー:交響曲第6番、7、9番、大地の歌
ブルックナー:交響曲9番(もちろん補筆完成版で)
バルトーク:ピアノ協奏曲第1番、第2番、弦チェレ
ラヴェルのラ・ヴァルス、ダフニスとクロエ
シベリウスの交響曲第4、5(もちろん初稿で)、6番
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番

もっと、マニアックにいくのなら

ポポフ:交響曲第1番
ハンス・ロット:交響曲
ニールセン:交響曲第4番
オネゲル:交響曲第2番、パシフィック231
グレツキ:交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」
クセナキス:ノモスガンマ
リゲティ:ロンターノ

さらに言えば、日本人作曲家も取り上げて欲しい。日本芸術の水準をアピールできるように文化庁あたりがドイツ政府に要請してもよいくらいである。

松村禎三:ピアノ協奏曲第1番
矢代秋雄:交響曲
一柳慧:交響曲第2番 『ベルリン連詩』

以上の曲をやってくれるのなら8万円のチケットでもかまわない気がする。

クラにクラクラ

昨日(12/17)、アマオケの先生から洗足学園音楽大学のコンサートの招待チケットを頂いたので行ってきた。

指揮 秋山和慶(東京交響楽団桂冠指揮者)
洗足学園音楽大学 ベーシックオケ
前田ホール 12/17 開演 18:30

    D.ショスタコーヴィチ/祝典序曲 Op.96
    L.アンダーソン/クリスマス・フェスティバル
    P.チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」 作品71
    G.ヴェルディ/歌劇「運命の力」序曲
    L.v.ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調「運命」作品67
    E.エルガー/行進曲「威風堂々」作品39 より 第1番 二長調

コンサートホールは大学内にある前田ホール。初めていくホールであり迷ってしまったが、学生さんに案内してもらった。このホールは中規模のホールながらパイプオルガンが設置されており、形状的には紀尾井ホールとか彩の国さいたま芸術劇場のような箱型ホールである。ただし、音響的にはデットであり、直接音がよく届き細部の音が良く聴こえるホールである。ということでは、録音向きのホールとも言える。

さて、この音楽大学の学生オケは3つ。今回は、1年生向けのベーシック・オーケストラとのことであった。他に4年生が中心のマスターオーケストラと、2,3年生中心のレパートリーオーケストラがあるということがパンフに記載してあった。

学生オケとはいえ、将来はプロを目指しているため、技術的には地方のプロ・オーケストラと遜色ないレベル。弦楽器のアーティキュレーションとか、充分に細かく再現できており、とりわけ、チェロ、ビオラ、コントラバスがしっかりしており、集団ではなく3つの楽器のように聴こえる。最近聴いた読響でも感じたが、ここ数年くらいで随分と中低域のアンサンブルが機械的に完璧になってきているが、その供給元である音楽大学の学生の質も随分と貢献しているのだろうと思った。

ただ、少し残念であったのだが、弦楽器パートに男性学生が極端に少なかったことだ。男性の職業としてオーケストラいうのが難しくなってきているであろう。

他、木管楽器は、クラリネットの音が超絶的に秀逸で、オーケストラがどんなに強奏していてもそのなかを突き抜けて聴こえてくる。オーボエが超絶にうまい人の場合はこうなるが、クラリネットでこの現象に出会いぶったまげたのであった。まあ、この現象はホールの特性もあるのかもしれないが、そこを差し引いても将来プロオケの奏者として活躍できる日が楽しみである。

金管楽器の方は、アメリカンな元気のよい明るい音で、ブラスバンド出身者が多いのかなあと思った。近年の国内オケは、随分とヨーロッパサウンドになって来ているので、その辺、需要供給関係はどうかなあ思ったしだい。

打楽器の方は、ティンパニを中心に他の打楽器もしっかりしており、文句がないところであるが、打楽器でプロ入団というのは、超絶的に競争が激しそうな世界なのであろうなあ。

●追記

首都圏の音楽大学の実力を知る意味で以下のイベントがあるようであるので、興味のある人は行ってみるとよいかもしれない。
第5回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ
   (首都圏:9大学選抜合同オーケストラ)

指揮:尾高忠明
曲目
    チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
    ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 作品47

2016年3月25日(金) 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
2016年3月26日(土) 会場:東京芸術劇場コンサートホール
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=1661

いいんじゃないラカトッシュ弦

サブのバイオリンの弦を変更することにした。弦は新作弦のアルファユーを張っていたのだが、音色が荒れてきたので交換することにした。この弦の寿命は毎日2時間程度の使用で1ヶ月くらいなのだろう。廉価な弦なので巻線が材質が良くないかもしれない。

というわけで、次にストックしておいたラカトシュ弦を使うことにした。ラカトシュ弦のA線はスチール弦なのでE線のように駒をガードするチューブが付いている。注意すべきは、他の人に楽器を貸す場合、A線ペグをキュルキュルと手際よく回す上級者も多いので、「A線の調弦はスチール弦なので気を付けて」と言っておかないと、切られるおそれがある。そういう事故を防ぐ意味と、調弦合わせをしやすくするためも含めてA線にアジャスターを付けておいた方が良いかもしれない。

さて、弦の性能の方であるが、少々のザラザラ感とともにアタックの立ち上がりに速さがある。現在試した弦のなかでは最速な感じがする。ヴィジョン・ソロ系、エヴァ・ピラッティよりも多分速い。アタックがフニャとなりがちな奏者にとっては嬉しいところだ。
音色はかなり明るくカラッとしている。インフェルド・レッド、ヴィルトゥオーゾ、オブリガートといったしっとりダーク系とは真逆。ドミナント、ピーターインフェルドのような中間色系よりももっと明るい感じ。輝き度はあるが、エヴァ・ピラッティ、ヴィジョン・ソロ・チタニウム、ピーターインフェルドの派手さよりは控えめである。

A線は唯一無二の弦で、この弦セットの中核でもあるのだが、この東西最速無双のアタック感をどう評価するかが難しい。いろいろな曲を弾いてみないとわからない。音程は差音が聴きやすいので取りやすいのは評価。

D線とG線は、レゾナンスが多め、そこそこのパワーがある。A線とマッチングを研究に時間を費やした感がある。弦のセットの中でも抜群に音色の統一感、音量のバランスが良いように思う。

全体的にレゾナンスの深みがあるので、音程はすごく取りやすい弦である。

というわけで、楽器によっては、とてつもなく性能を引き出せる予感がする。あるいは楽器を選ぶ傾向にある弦なのかもしれない。オールド楽器との相性は良いかもしれない。面白い弦なので、しばらく使ってみることにする。





自分の楽器の音に驚く

昨日、ちょっと楽器を貸してほしいというので、弓と一緒に貸したのであるが、その出音にかなり驚いた。何か音がギスギスしていて甲高く、自分の楽器の音とは思えなかったからである。でもその人の楽器をその人が弾くとそんな音ではないので、不思議な感じなのであった。

※おそらく、私のバイオリンでこの人が弾くのであれば、バイオリンの調整が必要となると思う。魂柱の位置、ガット弦にするなど。

ちなみに、師匠や、プロの演奏家や、うまい音高生に弾いてもらった感じでは、低域がガンガン鳴るユダヤぽい独特の音色をもつ楽器という認識だったのだが、それとはまったく逆に高域の方が強調されている。

まあ、違いは、私の師匠の奏法(軽い弓圧、弓速度によって音色をコントロールする奏法。指弓あり。奏法的に川畠成道さんに近い気がする。)と、その人の奏法(弓圧をややかける、駒ぎわ、元弓を中心とするアマオケ叩き上げの奏法。指弓なし。音色的にはN響の堀さんに近い感じかなあ。)はまったく違うので、ある程度は違いが出て当然なのだが、ここまで奏者によって違う音になることにびっくりしたのであった。そういう意味では、楽器選びというのは、非常に難しいのだろうと思ったしだい。楽器が人を選ぶというのもあるしね。

最近、アライ・バイオリンで検索してくる人が多いが、アライさんの評判を鵜呑みにすることなく、実際に工房のある長野へ自分の楽器と弓を持って行って、充分に比較して購入されるのが良いと思う。楽器の比較で忘れてはならないのが、楽器の調整によって随分と音が変わるということ。長期間の貸出も可能とのことなので、できればそうした方が懸命であろう。

※アライさんの楽器は現役のマイスターの作品と比べても、それに勝る優れた楽器だと思うので私は欲しいとは思うが、所有はしておりませんのであしからず。ちなみにクレモナの有名巨匠クラスの楽器なら300万~400万クラスだが、アライさんは130万。かなりお買い得のように思う。新作でこれだけの音はなかなか出せない。

※最近、リンク集を作っておいたのだが、気づいた人はいるのかなあ。そこからURLを辿ればよい。

●後日談
 音がキンキンするのは、ラカトッシュ弦のE線(1ヶ月使用)の音色変化が原因かもということで、ラーセン・ツィガーヌ弦のE線に変更してみたところ、キンキンする感じが消えた。ラーセン・ヴィルトゥオーゾ弦のE線は少し弱い感じがしていたのだが、ツィガーヌ弦はぴったしの音量であった。やはりラカトッシュ弦のE線は、ラカトッシュA線とセットで使うべきなのかもしれない。この弦はサブのバイオリンでは非常にバランスがよくいい音がしている。バイオリンの弦は季節や温度、湿度による違い、それと製品のロットによる違いで音色が変わる。特に新作弦の場合は、あるときは良かったり、悪かったりするので評価が難しいと感じる。

 私のように新作弦を積極的に使う人は珍しいのかもしれない。あまり慣れていない人は、発売から数年しばらく経過している弦、つまり製品として安定している弦を中心に選ぶのが良いかもしれない。
 定番としては、ドミナント、トニカ、ラーセン、アマオケで人気のビオリーノ、音色に潤いの変化がほしい場合は、オブリガート、インフェルド・レッド、シノクサ、派手系は、エヴァピラッティ、ビジョン・チタニウム・ソロ、ヴィジョン・ソロなどがある。

しかし、まあ、新作弦は毎年かなり種類が出ているが、安定して供給される弦は少ないように思う。

お得なサロンコンサート

プロのリサイタル・クラスのバイオリンの生音を小ホールで間近で聴くというのは良い勉強になる。とはいえ、一流ソリストの演奏になるとそれなりにチケット代がかかるし、それほど間近で見ることもできない。もし、彼ら、彼女たちが、聴きたくともコンサートに行くお金がないというのが理由の場合には、良い手段がある。

その一つに、楽器店主催の無償のサロン・コンサートがあるが、それよりも個人的にお薦めは、楽器店主催のサロンコンサートで、1千円~2千円程度の少額のチケット代金を払うものである。席が演奏者とかなり近いので、指板上の指の動きがよく見えるというのが利点だ。プロのリサイタルでもこんなに近くで聴くとことはできない。他に、こうしたサロン・コンサートの場合は、お菓子タイムやお酒タイムが設けられていることもあり、後で演奏者とお話することができるのも大きな利点である。

※楽器店のサロン・コンサートのチケット代金は、販促目的が強い場合は無償、鑑賞・懇親会目的では有料ということなのかもしれない。

先週土曜日に、そのようなサロンコンサートのお誘いが文京楽器さんから来たので行ってきた。出演者は現役東京藝術大学の3人集であった。

12/5 17:00開演

チェロ 稲本 有彩
バイオリン 齋藤 澪緒
ピアノ 池邉 啓一郎

エルガー 愛の挨拶  (vn pf)
モンティ チェルダッシュ (vn pf)
ショパン 前奏曲第15番変ニ長調 Op.28 (pf)
サンサーンス 白鳥 (vc Pf)
アレンスキー ピアノ三重奏曲 ニ短調 Op.32 (vn vc pf) 

アンコールはクリスマス・メロディの編曲物 (vn vc pf) 

齋藤さんに関しては、コンクール上位入賞者として知っていたが、このクラスの技術レベルになってくると、おおよそ音量、音程の正確さ、音質はアマチュアオケのトップレベルを完全に凌駕し、場合によっては中堅クラスのプロ・ソリスト、オケ奏者を超えてくるので、間近で聴けるのは、非常にラッキーである。

少々残念なのが、子ずれのお母さん達がたくさんいて、騒ぐ子供がいることなのだが、そこは我慢で、その演奏テクニックに注目して見ていれば、こうしたノイズも気にならない。

着目していたのは、サイモン・フィッシャーの有名な指導書の『Basics』のいたるところで書かれているサウンド・スポットの使い分けである。サウンド・スポットとは、指版から駒までの距離において、5つの領域にわけそのどの部分を弾くかということである。なお、誤解しないようにしてほしいのが、指板から駒までの距離の5つのスポットは、各ポジションによって異なることである。たとえば、ファースト・ポジションの場合はその間隔が広くなるが、セカンド、サード、フォースとポジションが上がるごとに間隔が狭くなっていくということである。

サウンドポイント

※上記の写真はBasicsからのP41からの引用です。

Basics
Fischer
Peters Edition Ltd
1997-12


弦楽器の場合は、駒よりに弾く方が、音量が大きくなるが、その部分はゆっくりと弓を動かさないと、ノイズが多くでてしまう。逆に指版方向には、やわらかな音で弓速度をあげて弾くことになる。

そういう視点で細かく見せて頂いたが、やはりフォルテは、駒よりでゆっくり、速いパッセージは、指版方向にいき速い弓で調整されている。特に駒よりの弾き方は、ずいぶんと参考になった。上級者は駒際に強いのである。これも、ここまで間近で見れる環境にないとわかならないところである。

あと不思議なのが、出音のアタックの速さである。これが、アマチュアと藝大生との大きな差で、たとえゆっくりと弾くロングレガートの各音においてもあきらかに音の立ち上がりが速い。昔の指導では、指板を叩くと教えられていたのであるが、今はそうではない。指を落とす離すの速度で重要である。

 これは、言葉では説明すると簡単であるが、実際にコントロールするには、プロ仕様のトレーニングを積む必要がある。野球でたとえると、130キロ後半の速球を投げ込めるかどうかに匹敵すると思う。普通の練習では無理なレベルであるが、この演奏を聴いて、セヴシックとかシュラディークとかまじめに取り組む必要性を痛感したのであった。

あと、高音域における指ビブラートのかけ方も観察させてもらった。やはりかける指先と弦との接触面積が充分にとれるような屈伸運動の滑らかさが必要なのだろう。

ということで、こうしたイベントは、バイオリン本来の音を聴くよいチャンスであろうと思うので、活用してみてはどうかと思うのであった。

●追記

 コンサート終了後のお楽しみということでくじ引きがあったのだが、なんと「毛替え無料券」があたった。日ごろのおこないがよかったのかもしれないと、にっこりである。

御業にひれ伏せ『メトリックグリッド』

がび~ん。最近、私は何て愚民だったのだかとショックを受けた。DPにこのような神機能があったとは......。

その名を『メトリックグリッド』という。この上位魔法、いや神技というべきか、これを知らないばかりに随分と時間を無駄にしてきた。懺悔の涙、あふれるは海の如し、ラルガメンテである。

この技こそが、前々から欲しい機能と思っていたのである。

クラシック曲では非常に多いのだが、例えば、ある連続したパターンで後ろの音符の音価をスタッカートにしたり、ヴェロシティを変更したりしたいのだが、これを一括してできる機能のありやメシア。

DPの検索機能でできそうなのだがと思っていたのだが、使い方が超絶に難しく、ほとんど使ったことがなかった。特にDPの検索機能のメトリックグリッドの仕様はさっぱりわからず暫く謎のままであったのである。一応、マニュアルに以下のように書いてある。

小節内を指定したデュレーションのグリッドに分け、検索するグリッドの位置を指定することができます。例えば、各小節で8分音符間隔のグリッドの1 つ目(1 拍目)と3 つ目(2 拍目)だけを検索対象とすることができます。

⇒愚民の怒り。具体的な方法を書け。

上記のマニュアルをみてトライしてみたのだが、さっぱり理解できず、このマニュアルは将来実現するであろう機能の予言書であると信じていたくらいだ。昨日、ふとしたことから予言書の意味がようやくわかった。

なので手順を忘れないように書いておこう。

まず、下の楽譜であるが、この2小節~3小節の八分音符の裏拍をスタッカートにしたいとする。

変更前パターン

※この青い音符の長さを変更したいのだ。

MIDIエディター画面では以下のようになっている。

メトリックグリッド9

まずDPのメニューから『エディット』>>『検索』>>『新規検索を実行』を選択すると以下の画面が表示される。

サーチ1


検索範囲のセレクトリストは『値』になっているが、これを『メトリックグリッド』に変更すると以下のように画面が変わる。

メトリックグリッド選択

ここでは3/4拍子の八分音符の裏拍をメトリックグリッドに設定してみる。
赤丸で書かれているところを変更する。

メトリックグリッド2

※メトリックグリッドの太線が4個目と5個目の間にでてくるがこれは気にしないでよい。
個人的には、拍子に合わせて太線の位置を変更してほしいとは思う。


大抵のお馬鹿さんは、あとは、検索開始ボタンを押しさえすれば、これの設定で望み通りの結果になると浅はかにも思うのであるが、ここが神と愚民との差だ。つい最近まで愚民であった私が言うのもなんだが、

「愚民達よ、次に画面の真ん中少し下にある『+』ボタンを押せ!!!!(rfz リンフォルツァンド!)。
さすれば扉が開かれる。」

メトリックグリッド4


そうすると『検索条件のどれかに一致』というなぞの看板が突然表示される。
「この看板の文字を以下に変更せよ。」

メトリックグリッド5


『検索条件のすべてに一致。』に変更せよ。

メトリックグリッド6


「そしてここで、選択域を参照をチェックするのだ愚民。」
「まだまだ、甘いぞ!
イベント欄にある、選択域にも気をつけろ。愚民!」


メトリックグリッド7


「さあ、変更したいところを選ぶのじゃ。」

選択領域を囲む




「父と子と精霊の御名において、検索開始を押せ~~~~。」

メトリックグリッド8


「いっけ~、これぞ神の業。知るが良い」

愚民はここで「おお~」ということになる。

メトリックグリッド10


「音価を変更だ。」

デュレーション変更


「やった~。今、私は神の奇跡をみた。」

デュレーション変更後


「あまい、神の技は書き留めておく必要があるのじゃ。
設定を保存せよ。」

保存

「ア~~~~~メン」(フリギア終止で)

それにしても、つい大人気なく劇画調になってしまったが、アプリの操作でここまで複雑なのは、初めてだ。まさに神技。MOTU神様にケチを付ける気はないが、もう少しマニュアルをどうにかしてほしいものだ。


●追記
 拍節とメトリックグリッドの関係は日中関係のように複雑だ。拍節が優先するのはわかるのだが、場合によっては意図する音符が選択されない場合もある。それと連符系はぜんぜんうまく行かない。もう少し調査が必要だ。and検索、or検索ができるのでかなり複雑な選択ができるのであるが、愚民にはその仕様は高度過ぎる。もう少しワンタッチで選択できるようなインタフェースにならないものかなあ。









N響黄金期確定?

「あら、凄い人が指揮を振っているけど、この人、プーチンじゃないよね。」

と母親が騒いでいるので、テレビのある居間へいくと、パーヴォ・ヤルヴィがN響を振っていた。曲はマラー2番の第一楽章であった。パーヴォ・ヤルヴィについていろいろと尋ねられたので、以下のように返事。

「この人は、世が世ならベルリン・フィルの首席指揮者になっていたかもしれない人だよ。」

最近、N響アワーを観ていないが、これも何かの縁であろう。時間もあることだし、全曲聴くことにした。

それにしても、凄いバトンテクニックだ。特に弱音から強音へ、強音から弱音に変化するときのタイミングが絶妙。オーケストラサウンドも綺麗にまとまっている。主役楽器の出し入れがうまい。それと目つきが怖い。まるでムラヴィンスキーのようである。

感心したのが、いつも80%の安心安全運転オケであるN響の各団員のやる気80%のサウンドをうまく組み合わせて、100%にしているというところだ。なるほど、ヤルヴィの前では、各奏者は全力を出さなくとも、そのバトンテクニックで100%にしてしまう。逆にヤルヴィ側からすれば、100%にしないで80%の状態をキープして、いつでも音を出せるようにしておけと緊張感を与えつつ、後は俺が取り纏めてやるといった感じの軍隊的なプロフェッショナルなサウンド作り。
ということは、今のN響にとって、史上最高の司令官、いやもとい指揮者ということになる。

それにしても、パーヴォ・ヤルヴィなんていう大指揮者をよくぞ雇ってこれたもんだ。野球で例えると、大リーグのホームランキングが、巨人軍に入団して来たようなものだ。あのやる気のないシブチンなN響から、年末大特価大売出しセールで音をフンダクッている快感がある。これくらいのリッチ&緻密なサウンドが出せるのであれば、N響でも悪くない。来年はN響を聴きに機会が増えるであろう。まさにシャルル・デュトワ以来のN響黄金期は約束されたものと考える。それくらいの価値がこの演奏にはあったと判断。

ご本人様の日本行きの理由のひとつに日本の聴衆が好きであると語っていたが、この前のコンサートのシベリウスもそうであったが、最後の一音が消え、指揮者が手をゆっくりと下ろすまで、拍手しないというクラシック音楽としての究極の礼儀作法は、他の国の聴衆では難しいことなのだろう。フライング・ブラボーおじさん達も随分と減ったのはうれしいかぎりである。

●追記1
 今回は、収録も秀逸であるし、ヤルヴィと若者達との座山会もあったし、NHKもクラシック音楽に対し本気度が少しは出てきたのかもしれないが、佐村河内的視点を忘れず、メディア誘導されないように冷静に分析しておく必要があるであろう。

●追記3
 マーラーはユダヤ人で、なかなか世間に認められなかった。そこに着目して、ユダヤにまつわる旋律やリズムを強調して、聖なるサウンドとの対比を取りながら演奏していたとのこと。なるほどね。バーンスタインのような箇所は、この部分だったのね。

●追記4
 コンマスのマロ様の弓毛がまさかの黒毛。どこで手に入れたのだろう。非常に珍しい。効果の方は如何程なのだろう。

グローバルな響きとローカルな響き

サントリーホールのコンサートスケジュールをたまたま見ていて、本日はなかなか良いプロがあるではないかということで、サントリーホールへ。お目当ては、シベリウスの交響曲第五番である。この交響曲は、なかなか聴くタイミングがなく本日が、自分にとっての初演日である。 個人的にはこの交響曲は夏に聴きたくなるベストワン・シンフォニー。高い山に登った時の雲の動きのようなサウンドが素敵だ。いろいろな指揮者のCDで聴いていて、バルビローリ=ハレ管、セーゲルスタム=ヘルシンキフィルがお気に入りである。
そしてシベリウス指揮者として評判が高いのが、今回のヴァンスカである。その馬は、日本弦楽アンサンブルの誇り読響。なかなかの好組み合わせのような感じで期待できそうである。それを察してか、都内のシベリウス・ファーンが大集合という感じで、やけに中高年サラリーマンの比率が高い演奏会であった。

2015年12月 4日(金) 19:00開演
会場:サントリーホール 

指揮=オスモ・ヴァンスカ

シベリウス:交響曲 第5番 変ホ長調 作品82
シベリウス:交響曲 第6番 ニ短調 作品104
シベリウス:交響曲 第7番 ハ長調 作品105

今回のコンサートマスターは日下紗矢子。いつの間に読響のコンミスになっていたのかと少し驚く。久しぶりの読響であったのだが、随分とメンバーが若返っている気がする。

さて、指揮者のヴァンスカのご登場で、期待の交響曲第5番が演奏される。

なんか、音響バランスが悪い感じだ。席が悪かったのかな。二階席のLD4列であったが、第一バイオリンの数が多いためか、高域に偏り過ぎており、木管楽器のフルート、オーボエの聴こえが悪い。ホルンの音に広がりがない。真ん中に寄りすぎかな。それと今回の配置は、Vn1,Vn2,Vc,Vaと普通のヨーロッパ配置なのだが、VaのF字孔が客席と反対側で木管楽器とぶつかるためフルート、オーボエの音域をマスクしている。バイオリンをファーストとセカンドともに1プルト減らしておき、Vn1,Vn2,Va,Vcのアメリカンスタイルにしておき、ティンパニを舞台左に寄せておけば、随分と響きがスッキリするのではないのかと思った。

そのバイオリン群は、細かなパッセージをかなり正確に弾きすぎているため、シベリウスの雲の動きのような独特な滲む感じの響きが失われている。針金をびっしりと張り巡らせた感じのサウンドだ。アーティキュレーションもかなり細かく付けている。これはオケとしては凄いことで、バルトークなんかをやる場合はこちらの完璧なアンサンブルの方が都合が良いのだが、あまりにも正確にアンサンブルが合いすぎるのも考えものだ。そういうこともあって、シベリウスの名盤は割とローカルなオケの方が味が出るのもうなづける。

それと音色だが、弦は重いサウンドで暗め、それに対して金管がやけに明るいサウンド、木管楽器は全体的におとなしすぎる。あるいは高域の伸びが足りないサウンド。トータルなサウンドがちぐはぐで、シベリウスの求めるサウンドとしてのまとまりに欠ける。

例えるなら、フィンランド語の声の響きを模倣しようとしているが、肝心の意味がわかっていないような演奏に聴こえる。テンポも割と早めなので、余計にそうしたことが強調されている気がする。

いつもは、このようには感じない優秀なオケなのだが、シベリウス故の独特のサウンド作りの難しさがあるのだろう。もっと時間をかけてじっくり熟成させてないと、いけない気がするが、現代のオーケストラではとても難しい課題だ。優秀な楽団員を集合させるだけでは中身のないグローバルなサウンドにしかならないのだろうなあ。今は意味のあるローカルな響きを作ることが非常に難しくなってきている時代なのだろう。

と、色々と書いてしまったが、聴衆には随分とうけていたようで、熱い拍手が続いていた。滅多に聴けない6番もあったし、ヴァンスカ様のご登場ということもあったのだろう。

⚫️追記

 やはり第6番の後に休憩を入れずに第7番を連続演奏した方が絶対に良く、そうすべきだと思う。第7番への集中力がそがれるため第6番の後の拍手は邪魔でしかないことを痛感した。


 
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