随分とご無沙汰していたのだが、重松さんからリサイタルのお誘いがあったので行くことにした。重松さんは東京芸術大学の三年生。色々なご縁があって演奏を聴いてきたが、今回はそのデビューコンサートになるのかな。


さて、ほぼ身内的な感じなので、とても感想が書きにくいのではあるが、これからプロ・デビューということなので敬意を込めて手加減なしで書いてみることにする。


重松彩乃 バイオリン 片岡健人 ピアノ


ヴァイオリン・リサイタル 2018/10/5

すみだトリフォニーホール 小ホール


ハインリヒ・ビーバー

守護天使のパッサカリア


ブラームス

ヴァイオリンソナタ第1番


セルゲイ・プロコフィエフ

5つのメロディ


フォーレ

ヴァイオリンソナタ第1番


 まず全体の印象は、とても大きな音を出しつつも柔らかくウオームな音色。特に重音がよく響きバランスが良い。音がでかいことは知っていたので一番後ろの席で聴いてみたのが、全く音痩せずに弱音であってもしっかり届いている。ピアノの音量に負けてしまう情けないプロも多いのだが、しっかり聴こえてくるのは一流の証。しかも潰れてしまう音がなく丁寧な音作りである。

 スタミナも旺盛で後半に行くほど音楽のスケール感が出てくる。日本人演奏家というよりも外国人演奏家のようなパワーである。今風でいうと大坂ナオミという感じかな。そこまではないとしてもタイプとしては、アラベラ・ミホ・シュタインバッハに近く、音質は師匠の松原勝也氏に似ている。


  表現力に関しては、現在のところ師匠に若干おとるかもしれないが、場数を踏むことによって急成長できるのではないかと期待できる。ご本人様が音楽を好きでやっているのがよくわかる演奏であるのが良い。



●守護天使のパッサカリア

 ノンビブラートでの演奏なのでバロックバイオリンのような酸っぱい感じの音になる。全体的に早めで軽さを生かした演奏。ノンビブラートにも関わらず音程が正確。聴きやすい。ただソロ曲なのでもうすこしフレーズ間に落語的な間や聴衆との呼吸を意識したいのだが、イザベル・ファーストのように名人になるには、場数が必要かな。


ブラームスソナタ

 ビブラート奏法に切り替えた効果により、なんかムターの演奏のように濃厚に聴こえる。感心したのは、ピアノとバイオリンの四声体を意識した和音バランスで、内声の響かせ方がうまい。特に重音が美しい。不満点は特になし。


5つのメロディ

こうした遊び要素の多い曲は、彼女の得意とする部分であり楽しく聴けた。複雑な音程もきっちり取れており不満点は特になし。


フォーレソナタ

並の演奏家なら疲れが見えてくるのだが、後半にむ向かって響も充実しており良かったと思う。元気のあるフォーレソナタという感じかな。アーティキュレーション的に一部、ベーレンライター版的な『え!』と思う斬新なところがあったのだが、新版が出ているのか確認しておこう。


※後日、重松さんから連絡があり、ヘンレ版とのこと。それにしてもフォーレって版によって随分と違うものだな。よく研究しておかないとね。


アンコール

W・クロール バンジョーとフィドル

こうしたメカチックな楽しい曲は、お箱という感じだね。ピアニストさんもよく付けてくれて好印象。彼女の場合は、ラテン系の自己主張の激しいピアニストさんだと相乗効果で面白い感じになるのかもしれない。



総括

弦楽器フェアで演奏してくれるバイオリ二ストよりも倍音が豊かで上質な音とボリュームがあるので、プロとして十分やって行けると思う。お世辞ではなく藝大生クラスになるとこうした猛者はたくさんいるのだが、継続してリサイタルをできる人は少ない。プロソリストは激戦区ではあるが才能を生かして生き残って欲しいものである。プロにとって聴衆に愛され続けるというのが最大の技術なのだろうなあ。


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いつもはメガネをかけておられるのだが、チラシはメガネなし。最初、誰?と思ってしまったが、舞台に出てきたときはメガネの重松さんで安心。当日は、もっと薄い水色に和風?の模様が入ったドレスであった。