バイオリンと録音と

クラシックのコンサート、バイオリンの演奏方法、バイオリンのグッズについての記事多し。他、楽譜(Lilypond , Sibelius)、和声学、作曲、DTM関連を取り扱っております。

ラフマニノフ

『2本のバイオリンのための組曲』を登録しておきました。
https://drive.google.com/open?id=1ynOSxS_4CD97qe05fArVmIE9hvtV6TD5

Lilypondでラフマニノフなのだゾ

この記事は前回の記事の続きである。前の記事を読んでいないと意味不明な部分があるのであらかじめ注意しておく。
 
今回は、ピアノ譜面入力の実践編。

これが今回の課題のラフマニノフの楽譜。ラフマニノフといえば、クラヲタから映画音楽みたいとか陰口を叩かれることの多い作曲家だが、その譜面をクラヲタに見せたら絶句して口を閉ざしてしまうであろう。私もその一人である。クレーメルさんのおかげで彼の楽譜を注意深く見るようになったのだが、市販の楽譜ソフトでは対応が難しい書き方をしているので、Lilypondで腕試しするには丁度いいだろういうことでセレクトしておいた。これぞピアノ音楽のだいご味である。

まず、この譜面。どうよ。一見すると上段に2声部、下段に2声部でやれそうな気がする。

ピアノ入力課題

「だから諸君は素人なのだよ。よく見たまえ、それではできないのだよ。ピアノの入力において戦略が必要であるといっておいたであろう。」

とバカ司令官が叫ぶ。

戦略はいろいろあると思うが、この場合は上段に3声部、下段に3声部と考えた。指が10本しかないのに六声部なんておぞましいということがラフマニノフの楽譜ではよく発生する。映画音楽に六声部はないだろうよ。化け物か、よほど手が大きかったのだろうなあ。バイオリンでは、パガニーニとかエルンストがこのロシアの変態に相当する。以下が戦略図である。

ピアノ入力課題戦略
上段 第一声部 黒
上段 第ニ声部 赤
上段 第三声部 青
下段 第一声部 緑
下段 第ニ声部 ダークマゼンタ
下段 第三声部 ダークイエロー

まず、各声部をとりあえず打ち込んでみると以下のような譜面になる。テクニック的には、上段、下段切替のコマンドを(\change Staff)と調号の変更コマンドを(\clef)使っているので注意してみてくれたまえ。

ピアノ入力課題休符の位置と符桁の向き修正


お試しは以下のサイトで簡単にできる
http://lilybin.com/

\version "2.18.2"

% ピアノ奏法
CD =\change Staff = "down"
CU =\change Staff = "up"
CB =\clef "bass"
CT =\clef "treble"

% 調号、調性、拍子の設定
global={
  \key c \major
  \time 4/4
}

% 五線上段
upper = {
  \global
  \clef "treble"
  
  <<
    % 第一声部
    \relative{
% 三連符の簡略化表現 \scaleDurations \scaleDurations #'(2 . 3){ r8 c'(f a c, f) r f,(gis a c f,) | e8(a c e c e)a, c e as, c e | \time 3/2 r8 \CD g,(\CU c e[g, c]) r g(c g' g, c) r a(b g' g, g') | } }\\ % 第ニ声部 \relative{ s1 | s2 a4 as | s1 s2 | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | e2. s4 | s2 s1 | } >> } % 五線下段 lower = { \global \clef "bass" << % 第一声部 \relative{ \CU a2 \CD dis, | s1 \CB | e2 s s | }\\ % 第ニ声部 和音がある場合は絶対モードで入力した方が楽。 { c,1 | <c, a,>2 s | <c, g,>1 <c, g,>2\arpeggio | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | r4 r8 \CT gis' a(g as fis) | \CU a,2 \CD e f | } >> } % ピアノパートの設定 pianoPart = \new PianoStaff \with { instrumentName = "Piano" } << \new Staff = "up" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \upper \new Staff = "down" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \lower >> % スコア設定 \score { << % 自動臨時記号設定 \pianoPart\accidentalStyle Score.piano >> \layout { } \midi { } }
このままでは「才能ナシ」なので手直ししてみる。

●手順1 まず気になる休符の位置の修正
\override Rest.staff-position = #0
●手順2 符桁(Stem)の向きを直す。
\stemDownまたは\stemUpを変更したい音符の前に挿入。

●手順3 2小節目の異なる音価の音符の連結
連結したい音符のどちらかの前に以下のコマンド挿入。
\once \mergeDifferentlyHeadedOn
\once \mergeDifferentlyDottedOn
e2.
●手順4 3小節目のアルページョの連結
これは少しテクが必要。和音のアルページョの前に以下のコマンド
を入力し、
\once \set PianoStaff.connectArpeggios = ##t
<c, g,>2\arpeggio
% アルページョのトップの音符にアルページョをかける
f\arpeggio

●手順5 譜変更線を入れる
以下のコマンドを\CUまたは\CDの後に
\showStaffSwitch
●手順5 スラーの形状を変更する
Lilypondのスラーは平べったいので適時変更するとよい。
スラーをかける音符の直前で以下のコマンドを入力。
\once \override Slur.positions = #'(1.0 . 1.5)
または 
\once \shape #'((-0.5 . 0.5) (0 . 2) (0 . 1) (0 . 0)) Slur
数値はお好みで調整。

ヒントは書いておいたのでご自分で打ち込んで練習してみてくれたまえ。

ソースは次ページでご覧あれ。
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クレーメルさんからの贈り物

昨日、ネットを徘徊していると、なんと探しに探していた楽譜がIMSLPにアップされており、狂喜乱舞状態。

その曲はクレーメルさんが2016年6月6日のサントリーホールの演奏でのアンコール曲である。演奏プログラムは生涯忘れえない阿修羅のごとく凄まじいものであったが、そのアンコール曲として選曲されたこの静かな曲は、この世のものとは思えない絶品の美しさで、史上最高楽器のアマティの貫禄を見せつけていた。
ということで、クレーメルさんが見つけてきた秘蔵の曲としてバイオリン・マニア界でも極めて有名になっている曲なのだ 
演奏会の様子は、ここに記載してある。
 
この楽譜は出版されておらず、東京文化会館資料室とか、音楽大学の図書館とかといろいろと探してみたのだがなかなか見つからない。こんなときに頼りになるのがアカデミアの店主である。この方は今まで出版された世界中のクライスラーの楽譜のデータベースをもっており、これを使って調べてもらったところ、2004年にカール・フィッシャー社から出版されたのだが、そのまま絶版になっていることがわかった。

 わかったのは良いのだが肝心の楽譜はどうなっているんだ、

カール・フィッシャー社はさっさと出版しろ!」

と思うのだが、権利が結構複雑なようなのである。それとこの曲のオリジナル写真譜面も探しているのだがわからない。たぶん、米国のどこかの音楽大学に保管されていると類推している。

 そんなこんなで、ようやく、しかもIMSLPで見つけたのだが、どうもカール・フィッシャー社の書き方ではないので、おそらく別ルートでの楽譜なのだろう。結構怪しい感じがするが、大きな音の間違いはなさそうな感じである。このピアノ譜面は音符の配置にさまざまな細やかな配慮があるので、楽譜出版業界のプロが書いていると思える。ある演奏目的で特別につくられたものなのかもしれない。

 
・疑問箇所

 ・題名がPreghiraであるが、日本語名で「晩祷歌」とある。ということは、もしかしたら国内で演奏された可能性がある??
 
 ・出だしがmfになっているが、これはppでないとおかしい気がする。ただクライスラーはあえてこうした指定をする場合もあるので、間違いとは言い切れない。
 
 ・バイオリンパートが出版楽譜としては貧弱である。強弱記号が少ない。ただ面白いことに運指は記載されているので、演奏目的で作成されたものかもしれない。なお強弱記号が明瞭でなくてもバイオリンはどう弾くべきかは、ピアノのパートが明白に示しているので演奏上の問題はないとは思う。

 ・クライスラーがよくやる決め所のバイオリン重音奏法がない。演奏上の都合で省いてしまった可能性があるような気がする。 → クライスラー本人の録音を聴く限り、それは杞憂であった。

それにしても、このピアノパートは、音が入れ組んでおり、和音構成も複雑なので難易度が高い。オリジナルのピアノ・コンチェルトも超えた精密な奏法で、とてもクライスラーが書いたとは思えない。ラフマニノフにも楽譜をみてもらったのか、さらに音を加えてあるのかもしれない。

不思議な書き方をしており、右手の四分音符が通常ではありえない位置に書かれているので、誤植かなあとおもって、原曲のコンチェルトの楽譜もみてみたのだが、そのようになっている。

なぞの音符


こうした書き方に何の意味があるのだろうか。ペダルを踏んだら違いがでないのでは?

ピアノを弾いている人にもどういう弾き方になるのか訊ねてみたが、要領を得ず。普通のピアノ教室の先生や音大生レベルでは解釈できないのであろう。この曲をもってコンクールにチャレンジするような専門家に尋ねてみたいものである。

 次に音源も探してみたが、現在発売されているのは、この1枚のみ。バイオリン・マニアご用達の西崎崇子さん。レア作品の収集家にとってはうれしいバイオリニストである。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op. 18 (編曲:クライスラー)
- Piano Concerto No. 2 in C Minor, Op. 18 (arr. F. Kreisler)
 
 この録音で聴く限りでは、先の疑問箇所の四分音符のところでルバート気味にしているのがわかる。でも全体的にテンポをゆらしているので、それがその奏法なのかどうかはわからない。

他、演奏上、気になるところがピアノパートで大きなアルページョがでてくるこの場面。

Preghiera難所

バイオリン側としてはどう対処するのが正解なのだろう。アルページョの前でいったん音を止めるのかなあと思ったのだが、これではダサい演奏になってしまう。西崎さんは音をデクレッシェンドしたピアニシモでキープして大きなアルページョが終わるタイミングで次のメロディへとつないでいた。

 なるほど、そうなんだと感心する。

 西崎さんの演奏は上質ではあり録音してくれていることに感謝である。ただクレーメルさんは別次元であり、神と対話しているかのような美しさは超絶的。現役バイオリニストでこの音を凌ぐ人はいないと断言できる。まあ、ピアノが超天才のリュカ君だし、教会のようなサントリーホールの音響効果もあるので、各段の差があるのは仕方ないところであろう。CD化を望みたいところである。

 ということで、この曲に興味のある方は積極果敢に演奏してみてほしい。バイオリンパートは技術的に難しくない。ただ音色の良さはかなり問われる曲であるのでビブラートの数は正確に数えて演奏する必要があるであろう。できれば録音もしてみたい気がする。

この曲の楽譜は(Arranements and Transcriptions のタブの一覧の中
 
II. Adagio sostenuto
For Violin and Piano (Kreisler)
 
 ●後書き

 動画でもいろいろあったので、聴いてみたがひどい演奏が多い。この曲はバイオリニストとしての技量と音色に対するこだわり方が如実に現れるごまかしができない曲なのであろう。それにしても、いろいろな版があるみたいである。その中でも驚天動地のクライスラー本人の演奏があり、すごくびっくりした。やはりこの弾き方でないとダメだろう。本人の演奏は説得力がある。
面白いのが、Piu mossoのところのピチカートを弓弾いているところ。ここはやはりピチカートの方よいだろう。ということは、この版は、この演奏後にクライスラーが修正しているのであろう。それにしても、この曲が書かれたのが、太平洋戦争が始まる前夜の1940年。クライスラーの思いはいかばかりのものかと思う。日本にも来日しているしね。 

 

●またまたサプライズ

あのクレーメルさんが、この曲の新譜を出しているではないか。
世界中のバイオリニストはクレーメルさんの後を追っているので、この曲は今後随分と演奏させることになるであろう。楽しみである。

●新譜

今なら格安で手に入るらしい。もちろん予約しておいた。こんなのを聴かないようではバイオリンマニアの資格なしである。史上最高のアマティの音を聴けるのだから。ただバイオリンの音をまったく理解していない最新鋭を気取るクレージーな録音技師が多いのでちょっと心配ではある。バイオリンの音にマルチコンプレッサーやファイナライザーのようなエフェクターは不要である。弱音が台無しになるからである。難しいのは、ホールの残響であるが、これだけは技師のセンスや才能が左右する。

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