この記事は前回の記事の続きである。前の記事を読んでいないと意味不明な部分があるのであらかじめ注意しておく。
今回は、ピアノ譜面入力の実践編。
これが今回の課題のラフマニノフの楽譜。ラフマニノフといえば、クラヲタから映画音楽みたいとか陰口を叩かれることの多い作曲家だが、その譜面をクラヲタに見せたら絶句して口を閉ざしてしまうであろう。私もその一人である。クレーメルさんのおかげで彼の楽譜を注意深く見るようになったのだが、市販の楽譜ソフトでは対応が難しい書き方をしているので、Lilypondで腕試しするには丁度いいだろういうことでセレクトしておいた。これぞピアノ音楽のだいご味である。
まず、この譜面。どうよ。一見すると上段に2声部、下段に2声部でやれそうな気がする。
「だから諸君は素人なのだよ。よく見たまえ、それではできないのだよ。ピアノの入力において戦略が必要であるといっておいたであろう。」
とバカ司令官が叫ぶ。
戦略はいろいろあると思うが、この場合は上段に3声部、下段に3声部と考えた。指が10本しかないのに六声部なんておぞましいということがラフマニノフの楽譜ではよく発生する。映画音楽に六声部はないだろうよ。化け物か、よほど手が大きかったのだろうなあ。バイオリンでは、パガニーニとかエルンストがこのロシアの変態に相当する。以下が戦略図である。
上段 第一声部 黒
上段 第ニ声部 赤
上段 第三声部 青
下段 第一声部 緑
下段 第ニ声部 ダークマゼンタ
下段 第三声部 ダークイエロー
まず、各声部をとりあえず打ち込んでみると以下のような譜面になる。テクニック的には、上段、下段切替のコマンドを(\change Staff)と調号の変更コマンドを(\clef)使っているので注意してみてくれたまえ。
お試しは以下のサイトで簡単にできる
http://lilybin.com/
http://lilybin.com/
\version "2.18.2" % ピアノ奏法 CD =\change Staff = "down" CU =\change Staff = "up" CB =\clef "bass" CT =\clef "treble" % 調号、調性、拍子の設定 global={ \key c \major \time 4/4 } % 五線上段 upper = { \global \clef "treble" << % 第一声部 \relative{
% 三連符の簡略化表現 \scaleDurations \scaleDurations #'(2 . 3){ r8 c'(f a c, f) r f,(gis a c f,) | e8(a c e c e)a, c e as, c e | \time 3/2 r8 \CD g,(\CU c e[g, c]) r g(c g' g, c) r a(b g' g, g') | } }\\ % 第ニ声部 \relative{ s1 | s2 a4 as | s1 s2 | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | e2. s4 | s2 s1 | } >> } % 五線下段 lower = { \global \clef "bass" << % 第一声部 \relative{ \CU a2 \CD dis, | s1 \CB | e2 s s | }\\ % 第ニ声部 和音がある場合は絶対モードで入力した方が楽。 { c,1 | <c, a,>2 s | <c, g,>1 <c, g,>2\arpeggio | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | r4 r8 \CT gis' a(g as fis) | \CU a,2 \CD e f | } >> } % ピアノパートの設定 pianoPart = \new PianoStaff \with { instrumentName = "Piano" } << \new Staff = "up" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \upper \new Staff = "down" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \lower >> % スコア設定 \score { << % 自動臨時記号設定 \pianoPart\accidentalStyle Score.piano >> \layout { } \midi { } }
このままでは「才能ナシ」なので手直ししてみる。
●手順1 まず気になる休符の位置の修正
\override Rest.staff-position = #0
●手順2 符桁(Stem)の向きを直す。
\stemDownまたは\stemUpを変更したい音符の前に挿入。
●手順3 2小節目の異なる音価の音符の連結
連結したい音符のどちらかの前に以下のコマンド挿入。
\once \mergeDifferentlyHeadedOn
\once \mergeDifferentlyDottedOn
e2.
●手順4 3小節目のアルページョの連結
これは少しテクが必要。和音のアルページョの前に以下のコマンド
を入力し、
\once \set PianoStaff.connectArpeggios = ##t<c, g,>2\arpeggio
% アルページョのトップの音符にアルページョをかける
f\arpeggio
●手順5 譜変更線を入れる
以下のコマンドを\CUまたは\CDの後に
\showStaffSwitch
●手順5 スラーの形状を変更する
Lilypondのスラーは平べったいので適時変更するとよい。
スラーをかける音符の直前で以下のコマンドを入力。
\once \override Slur.positions = #'(1.0 . 1.5)
または
\once \shape #'((-0.5 . 0.5) (0 . 2) (0 . 1) (0 . 0)) Slur
数値はお好みで調整。
ヒントは書いておいたのでご自分で打ち込んで練習してみてくれたまえ。
ソースは次ページでご覧あれ。
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