バイオリンと録音と

クラシックのコンサート、バイオリンの演奏方法、バイオリンのグッズについての記事多し。他、楽譜(Lilypond , Sibelius)、和声学、作曲、DTM関連を取り扱っております。

Lilypond

『2本のバイオリンのための組曲』を登録しておきました。
https://drive.google.com/open?id=1ynOSxS_4CD97qe05fArVmIE9hvtV6TD5

Lilypondでラフマニノフなのだゾ

この記事は前回の記事の続きである。前の記事を読んでいないと意味不明な部分があるのであらかじめ注意しておく。
 
今回は、ピアノ譜面入力の実践編。

これが今回の課題のラフマニノフの楽譜。ラフマニノフといえば、クラヲタから映画音楽みたいとか陰口を叩かれることの多い作曲家だが、その譜面をクラヲタに見せたら絶句して口を閉ざしてしまうであろう。私もその一人である。クレーメルさんのおかげで彼の楽譜を注意深く見るようになったのだが、市販の楽譜ソフトでは対応が難しい書き方をしているので、Lilypondで腕試しするには丁度いいだろういうことでセレクトしておいた。これぞピアノ音楽のだいご味である。

まず、この譜面。どうよ。一見すると上段に2声部、下段に2声部でやれそうな気がする。

ピアノ入力課題

「だから諸君は素人なのだよ。よく見たまえ、それではできないのだよ。ピアノの入力において戦略が必要であるといっておいたであろう。」

とバカ司令官が叫ぶ。

戦略はいろいろあると思うが、この場合は上段に3声部、下段に3声部と考えた。指が10本しかないのに六声部なんておぞましいということがラフマニノフの楽譜ではよく発生する。映画音楽に六声部はないだろうよ。化け物か、よほど手が大きかったのだろうなあ。バイオリンでは、パガニーニとかエルンストがこのロシアの変態に相当する。以下が戦略図である。

ピアノ入力課題戦略
上段 第一声部 黒
上段 第ニ声部 赤
上段 第三声部 青
下段 第一声部 緑
下段 第ニ声部 ダークマゼンタ
下段 第三声部 ダークイエロー

まず、各声部をとりあえず打ち込んでみると以下のような譜面になる。テクニック的には、上段、下段切替のコマンドを(\change Staff)と調号の変更コマンドを(\clef)使っているので注意してみてくれたまえ。

ピアノ入力課題休符の位置と符桁の向き修正


お試しは以下のサイトで簡単にできる
http://lilybin.com/

\version "2.18.2"

% ピアノ奏法
CD =\change Staff = "down"
CU =\change Staff = "up"
CB =\clef "bass"
CT =\clef "treble"

% 調号、調性、拍子の設定
global={
  \key c \major
  \time 4/4
}

% 五線上段
upper = {
  \global
  \clef "treble"
  
  <<
    % 第一声部
    \relative{
% 三連符の簡略化表現 \scaleDurations \scaleDurations #'(2 . 3){ r8 c'(f a c, f) r f,(gis a c f,) | e8(a c e c e)a, c e as, c e | \time 3/2 r8 \CD g,(\CU c e[g, c]) r g(c g' g, c) r a(b g' g, g') | } }\\ % 第ニ声部 \relative{ s1 | s2 a4 as | s1 s2 | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | e2. s4 | s2 s1 | } >> } % 五線下段 lower = { \global \clef "bass" << % 第一声部 \relative{ \CU a2 \CD dis, | s1 \CB | e2 s s | }\\ % 第ニ声部 和音がある場合は絶対モードで入力した方が楽。 { c,1 | <c, a,>2 s | <c, g,>1 <c, g,>2\arpeggio | }\\ % 第三声部 \relative{ s1 | r4 r8 \CT gis' a(g as fis) | \CU a,2 \CD e f | } >> } % ピアノパートの設定 pianoPart = \new PianoStaff \with { instrumentName = "Piano" } << \new Staff = "up" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \upper \new Staff = "down" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \lower >> % スコア設定 \score { << % 自動臨時記号設定 \pianoPart\accidentalStyle Score.piano >> \layout { } \midi { } }
このままでは「才能ナシ」なので手直ししてみる。

●手順1 まず気になる休符の位置の修正
\override Rest.staff-position = #0
●手順2 符桁(Stem)の向きを直す。
\stemDownまたは\stemUpを変更したい音符の前に挿入。

●手順3 2小節目の異なる音価の音符の連結
連結したい音符のどちらかの前に以下のコマンド挿入。
\once \mergeDifferentlyHeadedOn
\once \mergeDifferentlyDottedOn
e2.
●手順4 3小節目のアルページョの連結
これは少しテクが必要。和音のアルページョの前に以下のコマンド
を入力し、
\once \set PianoStaff.connectArpeggios = ##t
<c, g,>2\arpeggio
% アルページョのトップの音符にアルページョをかける
f\arpeggio

●手順5 譜変更線を入れる
以下のコマンドを\CUまたは\CDの後に
\showStaffSwitch
●手順5 スラーの形状を変更する
Lilypondのスラーは平べったいので適時変更するとよい。
スラーをかける音符の直前で以下のコマンドを入力。
\once \override Slur.positions = #'(1.0 . 1.5)
または 
\once \shape #'((-0.5 . 0.5) (0 . 2) (0 . 1) (0 . 0)) Slur
数値はお好みで調整。

ヒントは書いておいたのでご自分で打ち込んで練習してみてくれたまえ。

ソースは次ページでご覧あれ。
続きを読む

Lilypondのピアノ譜面は戦略が必要なのだゾ

Lilypondのピアノ譜面の入力において面倒くさい点は、休符の補てんをしない仕様になっていることである。休符の補てんというのは、例えば上段で譜面を入力したときに、下段において休符を補てんしてくれることをいう。

補てんしていない状態

自動でこうなってくれればよいのだがと思う。
補てんした状態

この程度のことなら下段にR2.*4と入れれば良いだけなので大したことはないが、メシアンやバルトークのような変拍子だらけの曲だと地味に面倒である。

まあ、こんな愚痴はどうでもよいことで、
「今回はLilypondにおけるピアノ入力の戦略についてであ~る。」
とバカ司令官のように叫んでみた。

大した内容でない。上段の2声部にした場合、上側は常に上向きの音符になり、下側は常に下向きの音符になるということ。4声部にした場合は、3声部目が常に上向き、4声部目が下向きになるという点に着目したい。

「え~、何を言っているのかわからん。」

そういう人のために以下を記載しておいた。
 
三声部入力

この楽譜は三声部だけど、馬鹿正直に三声部目に音符を入力すると以下のようになり音符の向きを逐次変更しなくてはならない手間が地味に嫌になるのである。

 真面目な人の三声部入力

「四声部目は音符下向きなのだゾ」という特性を知っている人は、あえて四声部にして入力するという手がある。ソースの抜粋を以下に記載。

\version "2.18.2" % マクロ設定 CT =\clef "treble" % 調号、調性、拍子の設定 global={ \key as \major \time 3/4 } % 五線上段 upper = { \global \clef "treble" \override Score.NonMusicalPaperColumn.padding = #2 << { \relative{ r4 c''(b) | r c(c) | r c c | r c(b | c f as) | } }\\{ \relative{ f'2. | f | f | f | f | } }\\{ % あえて四声部にする。 }\\{ \relative{ s2 g4 | s2 as4 | s2 g4 | s2 as4 | s2 des4 | } } >> } % 五線下段 lower = { \global \clef "bass" R2.*5 } % ペダル pedal = { } \version "2.18.2" % ピアノパートの設定 pianoPart = \new PianoStaff \with { instrumentName = "Piano" } << \new Staff = "up" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \upper \new Staff = "down" \with { midiInstrument = "acoustic grand" } \lower \new Dynamics = "pedal" \with { midiInstrument = "acoustic grand" }\pedal >> % スコア設定 \score { << % 自動臨時記号設定 \pianoPart\accidentalStyle Score.piano >> \layout { % 第一小節にインデントをつけない設定 % indent = #0 } \midi { } }
地味だが、これだけでも随分と手間が削減できるのだゾ。

ピアノ譜面で闇雲に入力すると手間が増えるので戦略を立てておく必要があるということを長々と書いてみたとというつまらん記事でした。次回はもう少しテク的な部分をやろうかなあ。

●追記
ああ、そうそう。書き忘れていたが、老婆心ながら「声部を複数にするときは、声部ごとに\relativeを
閉じておいた方がよい」。つまりこう書くのではなく、
 \relative{
  <<
    { 
      % 第一声部    
    }\\{
      % 第ニ声部
    }\\{
      % 第三声部
    }\\{
      % 第四声部
    } 
  >>
  }
}
こう書く方がよい。
<< 
\relative{ % 第一声部
}\\\relative{
% 第ニ声部
}\\\relative{ % 第三声部
}\\\relative{ % 第四声部
}
<<
例)
{
  \key a \major
  \time 4/4
  \clef "treble"

  <<
    \relative{
      % 第一声部
      a'' a a a
    }\\\relative{
      % 第ニ声部
      cis' cis cis cis
    }\\\relative{
      % 第三声部
      cis'' cis cis cis
    }\\\relative{
      % 第四声部
      e' e e e
    }
  >>
}

Lilypondのピアノテンプレートなのだゾ

私のような臆病者は「ピアノ奏者ならLilypondを使え」とはなかなか言えない。ピアノ譜面は複雑であちらこちらで衝突が発生する。それを回避するための手段を知っていないとまともな楽譜にならないというのが、Lilypond特有の難しさである。まあFinaleにしてもSibeliusにしてもそのような回避技を知っていないとできないので、要は経験ということであろう。

まず、衝突回避手段を知る前に、ピアノ譜面のひな形が必要。Lilypondのひな形は公式サイトでは以下のサンプルがおいてある。

お試しは以下のサイトで簡単にできるのだゾ。
知らなかったとは言ってほしくないのだゾ。

http://lilybin.com/

% バージョンの設定
\version "2.18.2"

% 調号、調性、拍子の設定
global={
  \key c \major
  \time 4/4
}

% 五線上段
upper = \relative c'' {
  \global
  \clef "treble"
  a4 b c d
}

% 五線下段
lower = \relative c {
  \global
  \clef "bass"
  a2 c
}

% スコア設定
\score {
  \new PianoStaff <<
    \set PianoStaff.instrumentName = #"Piano  "
    \new Staff = "upper" \upper
    \new Staff = "lower" \lower
  >>
  \layout { }
  \midi { }
}

上記のひな形は最低限のものであるのでこれでは役不足。以下の機能を付け足す必要がある。

1.譜面サイズの設定
2.用紙の設定
3.ヘッダーの追加
4.マクロ設定(ピアノ奏法、速度関連記号、表情記号など)
5.ペダルを専用の段を設定
6.自動臨時記号設定(ピアノ専用モード)

で手直ししたものが以下である。

% バージョンの設定
\version "2.18.2"

% changePitch.lyを使えるようにする設定
% \include "changePitch.ly"

% 譜サイズ設定 通常値は20
#(set-global-staff-size 20)

% 用紙の設定
\paper {
  % ペーパーサイズ 初期設定はa4。a3,b3,b4なども可能
  #(set-paper-size "a4")
  
  % 最初のページ番号。見開きにするために2ページから開始。
  first-page-number=2
  print-first-page-number = true
  
  % ページの余白の設定
  top-margin = 16
  bottom-margin = 14
  left-margin = 14
  right-margin = 14
}

% ヘッダーの設定
\header {
  title = "Title"
  subtitle = "Sub title"
  subsubtitle = "Sub sub title"
  composer = "Composer"
  tagline = ##f
}

% マクロ設定

  % ピアノ奏法
  CD =\change Staff = "down"
  CU =\change Staff = "up"
  CB =\clef "bass"
  CT =\clef "treble"
  PD =\sustainOn
  PU =\sustainOff
  UC =\unaCorda
  TC =\treCorde
  SON=\sostenutoOn
  SOF=\sostenutoOff
  MG =\markup{ \italic \tiny "m.g"}
  MD =\markup{ \italic \tiny "m.d"}
  MS =\markup{ \italic \tiny "m.s"}
  
  % 速度関連
  RIT=\markup{ \left-align \italic \tiny "rit."}
  PR=\markup { \left-align \italic \tiny "poco rit."}
  TI=\markup { \left-align  "Tempo I"}
  AT=\markup { \small "a tempo"}
  
  % 表情
  PIU=\markup { \small \italic \tiny "più"} 
  DOL=\markup { \small \italic \tiny "dolce"}
  EXP=\markup { \small "expressive"}
  
  % ダイナミックス
  PIUF = \markup{ \italic più \dynamic f }
  CRE=\markup { \italic \small "cresc."}
  DEC=\markup { \italic \small "dec."}

% 調号、調性、拍子の設定
global={
  \key c \major
  \time 4/4
}

% 五線上段
upper = \relative c'' {
  \global
  \clef "treble"
  a4 b c d
  |
  \bar "|."
}

% 五線下段
lower = \relative c {
  \global
  \clef "bass"
  a2\pp c
  |
  \bar "|."
}

% ペダル
pedal = {
  s2.\PD s4\PU
}

% ピアノパートの設定
pianoPart = \new PianoStaff \with {
  instrumentName = "Piano"
} <<
  \new Staff = "up" \with {
    midiInstrument = "acoustic grand"
  } \upper
  \new Staff = "down" \with {
    midiInstrument = "acoustic grand"
  } \lower
  \new Dynamics = "pedal" \with {
    midiInstrument = "acoustic grand"
  }\pedal
>>

% スコア設定
\score {
  <<
    % 自動臨時記号設定
    \pianoPart\accidentalStyle Score.piano
  >>
  \layout {
    % 第一小節にインデントをつけない設定
    % indent = #0
  }
  \midi {
  }
}

これがピアノ譜面を打ち込むための基本ひな形になる。ごちゃごちゃして難しく見えるかもしれないが、

『ヘッダーの設定』、『調号、調性、拍子』の設定を記入してしまえば、後は、 『五線上段』と『五線上段』と『ペダル』の部分のみとなる。


と説明する前にこのソースをみてお帰りになった人が9割くらいいると思うが、「人生は一度きり取り返せない」諦めが肝心でもあるし、最後までやり遂げる人にも後利益はあるのかもしれない。次回はこのひな形をつかってテクを学ぶだゾ。

ああ、忘れていた。ここまで読んだ人の土産物として、「バイオリンとピアノのひな形」を掲載しておきます。
※ changePitch.lyを使う場合は、コメントの%を外してください。(\include "changePitch.ly")

 

% バージョンの設定

\version "2.18.2"


% changePitch.lyを使えるようにする設定

%\include "changePitch.ly"


% 譜サイズ設定 通常値は20

#(set-global-staff-size 20)


% 用紙の設定

\paper {

  % ペーパーサイズ 初期設定はa4。a3,b3,b4なども可能

  #(set-paper-size "a4")

  

  % 最初のページ番号。見開きにするために2ページから開始。

  first-page-number=2

  print-first-page-number = true

  

  % ページの余白の設定

  top-margin = 16

  bottom-margin = 14

  left-margin = 14

  right-margin = 14

}


% ヘッダーの設定

\header {

  title = "Title"

  subtitle = "Sub title"

  subsubtitle = "Sub sub title"

  composer = "Composer"

  tagline = ##f

}


% マクロ設定


  % バイオリン奏法

  SULG=\markup{ \small "sul G"}

  SULD=\markup{ \small "sul D"}

  SULA=\markup{ \small "sul A"} 

  SULE=\markup{ \small "sul E"}

  Pizz=\markup{ \small "Piss."} 

  Arco=\markup{ \small "Arco"}

  SOR=\markup { \small "sordino"}

  SS=\markup{ \small "s.sord"}

  ST= \markup { \italic \tiny "sul tasto"} 

  LEG=\markup { \italic \tiny "legg."}

  DB=\downbow

  UB=\upbow

  

  % ピアノ奏法

  CD =\change Staff = "down"

  CU =\change Staff = "up"

  CB =\clef "bass"

  CT =\clef "treble"

  PD =\sustainOn

  PU =\sustainOff

  UC =\unaCorda

  TC =\treCorde

  SON=\sostenutoOn

  SOF=\sostenutoOff

  MG =\markup{ \italic \tiny "m.g"}

  MD =\markup{ \italic \tiny "m.d"}

  MS =\markup{ \italic \tiny "m.s"}

  

  % 速度関連

  RIT=\markup{ \left-align \italic \tiny "rit."}

  PR=\markup { \left-align \italic \tiny "poco rit."}

  TI=\markup { \left-align  "Tempo I"}

  AT=\markup { \small "a tempo"}

  

  % 表情

  PIU=\markup { \small \italic \tiny "più"} 

  DOL=\markup { \small \italic \tiny "dolce"}

  EXP=\markup { \small "expressive"}

  

  % ダイナミックス

  PIUF = \markup{ \italic più \dynamic f }

  CRE=\markup { \italic \small "cresc."}

  DEC=\markup { \italic \small "dec."}


% 調号、調性、拍子の設定

global={

  \key c \major

  \time 4/4

}


violin = {

  \override Score.MetronomeMark.padding = #2

  \global

  

  \relative c'' {

    % アウフタクトの場合

    %\partial 4*2 c g|

    c4\DB c\UB c c 

    | 

    \bar "|."

  } % relative end 

} % violin end


% ピアノ 上段

upper = \relative c'' {

  \global

  \clef "treble"

  a4 b c d

  |

  \bar "|."

}


% ピアノ 下段

lower = \relative c {

  \global

  \clef "bass"

  a2\pp c

  |

  \bar "|."

}


% ピアノ ペダル

pedal = {

  s2.\PD s4\PU

}


% バイオリンの譜面をキューボイスに設定

vn = \new CueVoice { \violin }


violinPart = \new Staff \with {

  instrumentName = "Violin"

  midiInstrument = "violin"

} \vn


% ピアノパートの設定

pianoPart = \new PianoStaff \with {

  instrumentName = "Piano"

} <<

  \new Staff = "up" \with {

    midiInstrument = "acoustic grand"

  } \upper

  \new Staff = "down" \with {

    midiInstrument = "acoustic grand"

  } \lower

  \new Dynamics = "pedal" \with {

    midiInstrument = "acoustic grand"

  }\pedal

>>


% スコア設定

\score {

  <<

    % 自動臨時記号設定

    \violinPart\accidentalStyle Score.modern

    \pianoPart\accidentalStyle Score.piano

  >>

  \layout {

    % 第一小節にインデントをつけない設定

    % indent = #0

  }

  \midi {

  }

}

Lilypond挫折危機回避メモ(ダイナミックス系)

楽譜を書いていると、mfやppといったようなダイナミックス系テキストを移動したい場合がよくある。ちょっと難しいのが、mfやppはDynamicTextオブジェクトでもあり、DynamicLineSpannerオブジェクトでもあることで、それぞれのオブジェクトが提供するプロパティが違うということである。なんか学者が書いているような文章になって恐縮だが、バイオリン弾きにとっては、その使い方がわかればよいので、なにも難しく考えることもない。習うよりも慣れろである。

以下、よく使われるパターンをまとめてみた。

ダイナミックス系垂直位置変更

この場合、DynamicLineSpanner.paddingを使って垂直位置を変更する。おもしろいのがpaddingの値をマイナス値にしても変化がないということである。五線の中には入ってこれないという意味なのだろう。paddingは五線の外の位置を示す値ということだそうだ。

\relative {  
\time 6/4  \key c \major
 
\override Score.NonMusicalPaperColumn.padding = #8 
g'4\pp
g\mf
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #2
  g\fz
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #4
  g\p
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #6
  g\mp
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #-8
  g\f
}
ダイナミックス記号が五線の上にくる場合は以下になる。

ダイナミック系垂直位置変更2
\relative {  
\time 6/4  \key c \major
 
\override Score.NonMusicalPaperColumn.padding = #8 
g'4^\pp
g^\mf
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #2
  g^\fz
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #4
  g^\p
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #6
  g^\mp
\once \override DynamicLineSpanner.padding= #-8
  g^\f
}
次は水平方向への移動。この場合はDynamicLineSpannerではなくDynamicTextのself-alignment-Xを使う。

ダイナミック系水平位置変更

\relative {  
  \time 6/4  \key c \major
  \override Score.NonMusicalPaperColumn.padding = #14
  s^\markup{
     \raise #8 \box \pad-markup #1 "ダイナミック系記号の水平位置変更"  
  }
  \once \override DynamicText self-alignment-X = #0
  c''\mf^"通常位置"
  \once \override DynamicText self-alignment-X = #1
  c\mf^"左揃え(#1)"
  \once \override DynamicText self-alignment-X = #-1
  c\mf^"右揃え(#-1)"
  \once \override DynamicText self-alignment-X = #2
  c\mf^"さらに左へ(#2)"
  \once \override DynamicText self-alignment-X = #-2
  c\mf^"さらに右へ(#-2)"
}
以下のようにダイナミック記号が混雑した場合、横に広げて解消する場合は、extra-spacing-widthを使う。パラメーターは#'(左、右)となっている。

ダイナミック記号が渋滞
              ↓
ダイナミック記号が渋滞解消


\relative {  
  \time 6/4  \key c \major
 
  \override DynamicText extra-spacing-width = #'(-1 . 1)
  c''-\mf c-\ff c-\pp c-\ppp c\pppp c\ppppp
}

Lilypond挫折危機回避メモ(クレッシェンド関連)

Lilypondにおいて、ヘアピン(クレッシェンド・デクレッシェンド)の位置を変更したい場合は頻繁に発生するのでメモを残しておく。

※ソースをつけておいたので、http://lilybin.com/のサイトにソースは張り付ければ確認できる。
 #のところのパラメータを適当に変更して遊んでみれば間隔がつかめると思う。 

● 回転させる
 Hairpin.rotationを使って回転させる。パラメータは3つあり。
 回転角度 , 回転の中心(x)  回転の中心(y)
 
 ヘアピンの回転
\relative {
  \time 3/4
    c'16\< (d dis a')\!
    \once \override Hairpin.rotation = #'(8 0.5 0)
    gis \> ( b dis e)\!
    \once \override Hairpin.rotation = #'(-10 -0.5 0)
    b'\<(gis e b)\!
}
●垂直位置を変更
 五線とヘアピンの間隔を広げたいことはよくある。
Hairpin.Y-offsetで変更する。

ヘアピンの垂直位置変更
\relative c'' {
  \time 3/4
    c,16
  \< (dis e gis)\!
  \once \override Hairpin.Y-offset = #-6
  c,\<(d dis a')\!
  \once \override Hairpin.Y-offset = #-10
  c,\<(d dis a')\!
}

●ヘアピンの幅変更
 -\tweak minimum-lengthを使う。このコマンドはタイ、スラー、フレージング・スラーにも使えるので便利。
ヘアピンの幅変更
\relative c'' {
  \time 3/4
    
  \override Hairpin.Y-offset = #-6
  c,16\< (dis e gis)\!
  c,
  -\tweak minimum-length #20
  \<(d dis a')\!
  c,
  -\tweak minimum-length #30
  \>(d dis a')\!
}
● ヘアピンを広げる
 -\tweak heightを使ってヘアピンを広げる。

ヘアピンを広げる
\relative c'' {
  \time 3/4
    
  \override Hairpin.Y-offset = #-6
  c,16\< (dis e gis)\!
  c,-\tweak minimum-length #20
  \<(d dis a')\!
  c,
  -\tweak minimum-length #30
  -\tweak height #1.5
  \>(d dis a')\!
}

 

Lilypondでカ〜ルく、フレッシュ

バイオリン弾きなら誰でも知っているハイフェッツの有名な言葉に、
 
『1日練習しなければ自分が気づく、2日だと批評家が気づく、3日になれば聴衆が気づく 』

というものがある。この通りバイオリンはサボることがゆるされない楽器なのであるが、忙しいときには5日以上も弾けないときもある。そんなときでもこれだけは練習しておけと言われているのが音階練習なのだが、カール・フレッシュ先生のスケールシステムの分厚さに嫌になるときもあるものだ。

もしかしたら薄いとやる気になるのではないかということで、 自分用の教則本を作ってみることにした。大抵の音階教本というのは、C-Durから始まって、F-Dur、B-Durというふうに5度ずつ下がる、つまりフラットが一つずつ増える順番に並んでいる。

私はこの並び方で練習するのは、効率がよくないのではないかと思っている。なのでG-Durから始まって、 As-Dur、A-Durというふうに半音ずつ上がっていく音階練習を毎日やっている。こちらの方が運指もすぐに覚えることができるし、♭や♯がいくつついてもそんなに苦になることはないのである。

で、これの譜面をLilypondで作成してみた。Lilypondでは、運指を変えたいとか、リズムを変えたいとかいう要望にも臨機応変に対応できるのがよい。

で作ってみたのがこれだと、Lilypondのソースを見せると、クマが襲ってきたかのように驚いてしまう人もいると思うので、クマをみるには、檻の外ということで檻を用意することにした。

檻にあたるWeb画面がこれになる。


英語の画面なので、クマを見たようにパニックになる人もいるかもしれないが、以下のソースを貼り付けて、ボタンをクリックするだけで楽譜ができてしまう。簡単でしょう。

貼り付けるソース(クマ)はこちら。
なお、楽譜の変更したいチャレンジャーさんの場合は黄色の部分を変更すればよい。チャレンジはどんどんすべし。檻の中だから殺されることはない。←え〜。大丈夫?

\version "2.18.2"

\header {
  title = "FLESCH Scale System"
  subtitle = "3oct scals"
  composer = "Carl Flesch"
  tagline = ##f

\paper {
  #(set-paper-size "a4")
  first-page-number=2
  print-first-page-number = true
  top-margin = 18
  bottom-margin = 24
  left-margin = 16
  right-margin = 10
}

global = {
  \key g \major
  \time 4/4
}

violin = \relative c' {
  \global
  % Music follows here.
  g8 a b c d_4 e fis g  | a-4 b c d-1 e fis g a | b c-3 d-1 e fis g-4 fis-3 e-2  | 
  d c-3 b-2 a-1 g-4 fis e-2 d | c-2 b-1 a-4 g fis e d-4 c | b a g2. \bar "||" |
  
  \key as \major
  as8-1 bes c des-4 es f g  as | bes c des-1^"II" es f g as-1^"I" bes-2 | 
  c-1 des-2 es-1 f-2 g-3  as-4 g-3 f-2 |
  es des-3 c-2 bes-1 as-3^"I" g-2 f-1 es-4 |
  des c bes as-4 g f es des-4 | c bes as2. \bar "||"  |

  \key a \major
  a8 b cis d-4 e fis gis  a-4 | b cis d-1 e fis gis  a b |
  cis-1 d e-1 fis-2 gis-3  a-4 gis fis |
  e-1 d-3 cis-2 b-1  a-3^"I" gis-2 fis e-4 |
  d cis b  a-4 gis fis e d-4 | cis b  a2. \bar "||" |
  
  \key bes \major
  bes8 c d-4 es f g a-4 bes | c d-1 es f g a bes c-3 |
  d-1 es-2 f-3 g-1 a-2 bes-3 a-2 g |
  f-3 es d c-3  bes a g-4 f |
  es d-1 c-2  bes a-4 g f es | d-4 c bes2. \bar "||" |
  
  \pageBreak 
  
  \key b \major
  b8 cis dis-4 e fis gis  ais-4 b | cis dis-1 e fis gis  ais b cis-3 |
  dis-1 e-2 fis-3 gis-1  ais  b-3 ais-2 gis | fis-3 e dis cis-3 b ais gis-4 fis |
  e dis cis-2 b  ais-4 gis fis e | dis-4 cis b2. \bar "||" |
  
   \key c \major
   c8-3 d e f  g a b c | d-1 e f g a-1^"I" b-2 c-3 d-1 |
   e-2 f-3 g-1  a-2 b-3 c-4 b-3 a-2 |
   g-1 f-3 e-2 d-1 c-3 b-2 a-1 g-4 |
   f e d-1 c-2 b a g f | e d c2. \bar "||" |
   
  \key des \major
  des8-2 es f ges-1^"III"  as bes c des^"II" |
  es f-1^"II" ges  as bes c^"I" des es-3 |
  f-1 ges-2  as-3 bes-1 c-2 des-3 c bes-1 |
  as-3 ges-2 f-1 es-3 des-2 c-1 bes-4^"II" as-3 |
  ges-2 f-1 es-2 des-1  c-4 bes as ges | f-4 es des2. \bar "||"

 \key d \major
 d8-2 e fis g a b cis d | e fis-1^"II" g a b cis d e-3 |
 fis-1 g-2 a-3 b-1 cis-2 d-3 cis b  |
 a-3 g-2 fis-1 e-3 d-2 cis-1 b-4^"II"  a | 
 g fis e-2 d-1 cis-4^"III" b  a g | fis-4^"IV"  e d2. \bar "|."
 
}
%showLastLength = R1*7
\score {
  
  \new Staff \with {
   % instrumentName = "violin"
    midiInstrument = "violin"
  } \violin
  \layout { 
    indent = #0
  }
  \midi {
    \tempo 4=60
  }
}
貼り付けた後の画面はこちら、 StableボタンからLastest Stable(2.18.2)を選択すると楽譜が表示される。

ソースを貼り付ける

楽譜が表示されたら、後は煮るなり焼くなりお好きなように。修正は簡単だ。楽譜をクリックすると左側のソースにカーソルがいくので、そこで修正する。

Lilypondの出力結果


「お前は馬鹿か!指番号がダメすぎだろう。何考えているのだ」

というような人がいても心配はなし。以下のようにするだけ。

例えば、4番から3番に指番号を変更したければ、
as-4 「-4」が指番号なので、これをas-3に変更するだけである。
ちなみに下の位置に指番号をつけたいなら、as_3とするのだよ。

「スラーをつけてないのはけしからんぞ!楽譜を冒涜しているのか!」

というクマより怖い原理主義者にアドバイス。「(」「)」でくくるだけだぞ。

例)
g8( a b c) d_4( e ) fis( g)
 
カール・フレッシュは三連符で書いているのに八分音符で書くのはおかしいじゃないか。

あ〜うるさい。文句があるなら「リファレンス」を見るべし!少々の手間はかかるが、変更するのはそれほど難しいことではないとイエヨウ。知らなかったとは言ってほしくない。

というふうに意外にも簡単にできて、しかもクラシック音楽が誇る伝統書式で楽譜ができる。これで無料だし、MacでもWindowsでも、さらに奥さん、iPhoneでもスマフォでも楽譜がつくれ、PDFもMIDIもできてしまうのである。画期的である。

こちらはiPhoneの画面。これで電車のなかでも楽譜がかけるぞ!

iPhoneでLilypond


で、なんだかんだで、完成。これを毎日5分練習すればよい。



 







 

Lilypondの薦め

最近、楽譜ソフトのSibeliusの状況がいろいろな意味でアレなので、他の楽譜ソフトを検討してみた。お絵描きソフト的な使いやすさからいうとSibeiusが良いのであるが、これとまったく反対方向に Lilypondという硬派なソフトがある。こちらはソフトというよりもプログラミング言語といってよいものである。よくもまあ、こんな使い勝手の悪いソフトが生き残っているなあというのが長年の正直な感想なのであったが、生き残っているのも理由があるのだろうということで、使ってみることにした。

まず、最初につまずいたのが、ピッチの相対モードというものであったが、何回か練習してみて、なるほどこれは合理的で賢いやり方だと思い感心した。

 Lilypondでも絶対モードはあるので、これで以下のドレミファソラシドを書いてみると、

音階

 c' d' m' f' g' a' b' c'' d'' m'' f'' g'' a'' b'' c'''

上記のように絶対モードだと音の高さを表現するのに「’」「’’」「’’’」をつける必要があるのでとても面倒くさい。これが相対モードだと以下のように簡単に表現できる。これはかなり入力効率が良い。

relative c' {
  c d e f g a b c d e f g a b c
}

相対モードは、音程差が5度以上になるかどうかだけを意識していれば良いのであるから、例えばこんな楽譜だと

広い音程の楽譜

relative c' {
   b16 d' e f g a, g f e d c b
}

% 16は16分音符を示す。「’」は1オクターブ上げ、「,」は1オクターブ下げ 
 
これなんか、とても人にわかりやすい書き方になっている。後で暗譜するときにも使えるのも嬉しい。

そんなこんなで、いろいろ遊んでみたのだが、このソフトは奥が深い。クラシック音楽の伝統的書式をすべて継承していることがわかって驚いた。譜面の書き方が非常に正確なのである。クラシック音楽をやっている人なら知っていて当たり前なのだが、 Sibeliusではそうでない書き方をすることがよくあり、スラーの位置や音符の位置など、その都度修正する手間があったのだが、Lilypondではその手間がない。検証のためにクラシック音楽の聖典とも言われているこの本を何回も読み返してみたほどである。

 それにしてもこの本が、現在販売されていないのは嘆かわしい。最近、聖典と言われている書籍がことごとく市場から姿を消し、クラシック音楽の伝統を学んでいない著者の書いた内容の薄い漫画の解説本が幅を利かせているのはとても脅威である。

こうした聖典なき暗黒時代において、クラシック音楽の伝統を継承した本物の楽譜を書くためには、 Lilypondで記載するのが一番良い方法だと思うのである。

記譜法入門 翻訳シリーズ 美しい楽譜を書くための 
デール ウッド
サーベル社
1998-12-10

 
聖典
 

●追記
 とはいえ、Lilypond単体では、なかなか使いこなすのが難しいので、慣れないうちは、以下のサイトへ行って、Lilypondのコードを入力して遊ぶのがよい。PDFとMIDIファイルを作ることもできる。

LilyBin

 慣れてきたら、frescobaldiというLilypondをサーポートするソフトを併用するのがよい。こちらはLilypondのコマンドをサポートする開発支援環境のようなものである。使い方は簡単であるので英語ソフトではあるが臆することなく使える。日本語入力もできるのも嬉しい。








 
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