最近、ピアノの音がホンキートークやプレペアードピアノのように調律が狂って聴こえ、ボコボコ太鼓を叩いているように聴こえる珍現象が大分マシになってきた。ただ、寒い日は元に戻ることもある。首を痛めるということは、あらためて凄いことなるのだと思い知り、バイオリンを弾く前と弾いた後にはかならずストレッチをやっている。

 こうした状況になったときに、ふと思ったのが人の耳の聞こえ方である。個人個人によって随分と違うのかもしれないということである。そう、そう、思い出した。ブルックナーが好きな人がいて、その人は高域音が聴き取り難い人なのだが、そのような耳でバイオリンの高音域はどのように聴こえているのかと尋ねたことがあった。
 その人曰く、『高い音が鳴っているという感じで聴いているのだ』ということだった。

人間の耳と脳は凄いもので『あるはずである』と認識していれば、想像でその音を聴いてしまえるのである。

で、話が長くなってしまったが今回の話題はヘッドフォン。私は、ソニーのモニター用のヘッドフォン(MDR-CD900ST)を持っているが、スタジオモニター用ということもあり解像度が高くて良いのだが、耳に痛いヘッドフォンである。これとは違うタイプのオープンエアタイプのものがほしくなったので、クラシック音楽向けの製品をいろいろ調べてみた。ネット情報は様々であったのだが、集約すると

ゼンハイザーのHD800Sが最高との意見が多く、さらに極めし人はSTAX SR-009が至高とのことであった。価格も破格なのだが、こうした高額製品を購入している人も随分といるのだなあ。さすがは日本。マイ電柱の購入で世界を驚愕させているだけのことはあるオーディオマニアの帝国である。

オーディオマニアが徘徊する価格COMやアマゾンのレビューは今日も『リケーブル』『上流の整備』『インピーダンス』『ヘッドフォンアンプ』『バランス化』『ハイレゾ』『DAC』というような魔法呪文で満ち溢れているのである。

私が思うに、クラシック音楽といっても、オーケストラ、オペラのような大規模編成もあれば、弦楽四重奏曲のような室内楽、合唱、ピアノ独奏、バイオリン独奏、チェンバロがチャリチャリ鳴るバロック音楽まであるので、一概にクラシック専用ヘッドフォンというわけもないだろうと思っていたのだが、第三位界を超えるアダマンタイト級マニアになると、それぞれのクラシック音楽のジャンルごとにヘッドフォンも当然のごとく準備しておられる方も随分といらっしゃるのである。

バッハのバイオリン独奏用にはこれ、モーツアルトのピアノ協奏曲用はこれ、フルトヴェングラーにはこれという具合に。

このレベルに達しておられる方は、ヘッドフォンの価格が音質に比例するという考え方から解脱しており、ヘッドフォンは値段ではなく個性であると菩提樹ならぬマイ電柱オーディオの木の下で悟っておられるようだ。

これとは別に面白い動画の説明があり、その人はAKGヘッドフォンの愛好家なのだが、お店であるAKGのヘッドフォンが気に入ったので、それより高いグレードのAKG製品をポチッと通販してみたのだが、大外れであったというものであった。バイオリンの弓とおなじで高額な製品が必ずしも良いとは限らないのである。

で、本日、余分な知識満載で秋葉原の専門店を巡ってきたのだが、正直なところ2万円以上のヘッドフォンをiPhone6レベルの下等音源でオーケストラ曲や室内楽を視聴して判断しようなど無謀もよいところであった。アンネ・ゾフィ・ムターに童謡を演奏させているようなものだ。それほどヘッドフォンの能力がすごいことになっているのである。

後で気が付いたのだが、何か四角い箱を持ち歩いている人がいたがこれは携帯用ヘッドフォンアンプだったのかもしれないね。

これには困ったが、ちょうどムローヴァ様の無伴奏バイオリンの演奏がiPhoneに入っていたので、これを基準に比べることにした。

ムローヴァ様の極限の緊張感を強いる演奏は生演奏でも焼き付いているので、この焼き付いた音と、ヘッドフォンとの差異を聴いていくことにした。ほとんどの製品は同じ傾向であったのだが、違う傾向の製品が3つほど。

ゼンハイザー:HD660S,HD800S
クラシック音楽の愛好家から絶大な評価を受けているだけあって、かなり聴きやすい。中音低音がまろやか。品番による差は、それほど大きくないとみた。なんせiPhoneですから。ヘッドフォンアンプを買ってから来やがれということですな。

フォステックス:TH610 
個性的な質感ではあるが、自然な広がりがあってよい感じで良い。下のAKGとどちらが良いかでかなり悩む。後で気がついたのだが、この違いは密閉ダイナミック型のヘッドフォンであったことによるものであろう。

 AKG:712Pro
最初は候補にも入れてなかったのだが、目立つオレンジ色に惹かれて聴いてみたところ、この製品こそが弦楽器の音をうまく再現しているのではないかと、ピントがジャストフィットした直感があった。解像度が高く、ムローヴァ様が指板を叩く音や、移弦する音まで明確にわかった。この機種の上位、下位機種も聴いてみたが、AKGのマニア様のいう通りだ。唯一無二、どこか違うと思った。

STAX: SR-009
さすがに37万もする製品だけあって、次元が違うという感じ。アンプも専用ヘッドフォンアンプのT8000というものすごいものなので、コンサートホールで聴く感覚にほぼ等しく、「至高の恩方であらしゃいますSTAX様、万歳!」という感じ。でも冷静に考えれば、スピーカー聴きをしない方向で考えるなら、ヘッドフォンマニアの方がオーディオマニアよりも随分とコストパフォーマンスが良いのかもしれない。場所も取らないし、大音量で聴けるし、オーディオルームにお金をかけなくて良いしね。

それにしても、アキバの専門店は大繁盛していますね。これからの若者はヘッドフォンということなのかもしれないね。

店内



さて、さて凄い世界をみせてもらったが、予算をきっちり決めておかないと泥沼にはまりそう。2万円~3万円程度が適当ではないのかなあと思った。5万円以上するものは、その値段と同じくらいのヘッドフォンアンプを付けないと意味がないかなあと思った。

長時間視聴してしまったので、お店に悪いなあという感じがしたので、AKG:712Proを購入しようとしたのだが、iPhoneで演奏中のムローヴァ様をよく見ていたお兄さんが、この機種を先に購入したのであった。まさか私をリファレンスにしていたとは。ちょっとためらったのが不覚。名古屋店から取り寄せるとのことで、手に入るのは2日後かなあ。